賃金や労働時間の端数処理は労基法違反?認められるのはどんなとき?
労働基準法第24条第1項は、「賃金は、その全額を支払わなければならない。」と規定しています。
これは使用者が勝手に賃金を控除することは原則として禁止するもので、「全額払いの原則」と呼ばれています。
賃金全額払いの原則は、一方的な控除を禁止することで労働者の経済的生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするもので、「賃金支払い5原則」の一つとされています。
※残りの4つは「通貨払いの原則」「直接払いの原則」「毎月1回払いの原則」「一定期日払いの原則」。
端数処理が認められる場合
事業所によっては、給与や労働時間の端数処理を行っている場合があるでしょう。
これは賃金全額払いに違反するのでしょうか。
事務処理の簡便化を目的として一定の場合に端数処理をすることには合理性がありますし、労働者の不利益も大きくはありません。
そこで、次のような端数処理は労基法違反にはならないとされています。
要件 | 端数処理 |
1か月における時間外労働、休日労働および深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数が生じた場合 | 30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること |
1時間あたりの賃金額および割増賃金額に1円未満の端数がある場合 | 1円未満の端数を四捨五入すること |
1か月における時間外労働、休日労働および深夜業の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数がある場合 | 1円未満の端数を四捨五入すること |
1か月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した額)に100円未満の端数がある場合 | 100円未満の端数を四捨五入すること |
1か月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した額)に1,000円未満の端数が生じた場合 | 1,000円未満の端数を翌月の賃金支払日に繰り越して支払うこと |
その他の例外
労基法で規定されている例外
労基法第24条第1項では、
- 法令に別段の定めがある場合
- 労使協定がある場合
に賃金の一部を控除して支払うことができるとされています。
「法令に別段に定めがある場合」とは、所得税や地方税の源泉徴収、社会保険料の源泉控除などのことです。
購買代金、社宅費・寮費、組合費などを賃金から控除するためには、労使協定を締結する必要があります。
この労使協定は行政官庁(労働基準監督署など)に届け出る必要はありません。
この労使協定を結ぶと賃金の全額払いをしなくても労基法違反の罰則を受けることはありませんが、実際に賃金から控除するには、就業規則、労働契約等でその旨を定める必要があります。
過払い賃金の清算
前月分の過払い賃金を当月分で清算することは、労働者の経済生活の安定を脅かすものではありませんので、認められます。
欠勤、遅刻、早退
労働者の自己都合による欠勤、遅刻、早退があった場合に、労働の提供がなかった限度で賃金を支払わないことは、そもそも「控除」には該当せず、全額払いの原則に違反しません。
相殺
使用者が労働者に対して債権を有している場合、これを労働者の合意なく賃金債権と相殺することは、全額払いの原則に違反します。
もっとも、労働者の完全な自由意志によって行われる相殺は禁止されていません。