従業員に対する所持品検査が適法とされるのはどんなとき?
従業員に対する所持品検査を行う際にはご注意ください
社会の特定の従業員による不祥事が発覚した場合などに、再発防止のために社員全員を対象として抜き打ちで所持品検査を行いたいが可能か、というご相談をいただくことがあります。
所持品検査は、会社の就業規則に所持品検査ができる旨の規定があり、判例が定める要件に従って厳密に行われれば、適法とされることがあります。
しかし、所持品検査は労働者の基本的人権を損なうおそれがありますので、就業規則に基づいて行われるからといって必ず適法とされるわけではありません。
所持品検査が適法とされるための要件
最高裁の判例では、従業員の所持品検査を適法に行うには以下の要件を満たす必要があると解されています。
- 検査を必要とする合理的理由があること
- 検査の方法が一般的に妥当な方法と程度であること
- 制度として職場従業員に対し画一的に実施させるものであること
- 明示の根拠に基づくこと
どのような場合に適法とされるか
就業規則等における規定、または少なくとも従業員の同意が必要
一般的には、就業規則などにおいて会社が所持品検査をできることを規定していることが必要とされています。
また、従業員が真に同意していると言えるのであれば、その同意された範囲に限り、所持品検査ができると考えられます(ただし、同意の有無や範囲が事後的に問題になる可能性が残ります 。)。
なお、就業規則の定め方によっては、一般的な所持品検査を規定したものではないなどとして、根拠規定として認められない可能性があります。
就業規則に定めがある場合
就業規則に所持品検査ができる旨の規定がある場合は、所持品検査を行える可能性があります。
ただし、どのような所持品検査も許されるというものではなく、上記1~3の要件を満たす必要があり、適法となるハードルは高いです。
裁判例には、検査対象を限定したもの や、職場内への持ち込みを禁止されている物品を所持していることを疑うに足りるだけの合理的理由がある場合に限られ、単なる見込では足りないとしたもの 、何らの不審な点もないのに着衣の上から手で触るなどした所持品検査が従業員に屈辱感や侮辱感を与えるものであり、所持品検査として許される方法・程度を著しく逸脱したものであるとしたものなどがあります。
また、仮に違法でないとされる場合でも、所持品検査をする目的をどう伝えるかによっては、従業員に不満を抱かせることとなる可能性があると考えられます。
就業規則に定めがない場合
他方で、就業規則に所持品検査ができる旨の規定がない場合は、所持品検査をすべきではないと考えます。
なぜなら、従業員の同意があれば所持品検査をし得るとしても、やましいことがある従業員は検査に応じず、所持品検査の実効性が上がらないと考えられるからです。
また、拒否すれば所持品検査に応じなくて済むということになれば、不正を働かず、所持品検査にも素直に応じた従業員が御社に対して不信感や不満を持つこととなり、デメリットが大きいと考えられるからです。
違法な所持品検査をした場合はどうなる?
違法な所持品検査をした場合、当該検査を拒否したことを理由とした懲戒処分が無効となるだけでなく、不法行為として損害賠償責任を負うことになります。
たとえば、慰謝料の支払いが命じられることになります 。