従業員が横領をしたら返還請求や解雇はできる?使用者側専門の弁護士が解説

従業員が横領をしたら返還請求や解雇はできる?

はじめに

弁護士澤戸博樹

会社の従業員による不正行為の最たるものが、会社の財産の横領・着服です。

従業員による会社の金銭や物品の横領・着服が発覚したとき、経営者が気になるのは主に次の3点でしょう。

  • 横領された金銭・物品を返還・賠償してもらえるか
  • 横領した従業員を今すぐに解雇できるか
  • 告訴して刑事罰という制裁を与えられるか

この記事では、従業員の横領が発覚したときに使用者がとるべき対応について詳しく解説いたします。

まずは事実関係を調査する

「ある従業員が、どうやら横領を行っているらしい…」

このような疑いを抱いたとき、先走ってすぐにその従業員の解雇や刑事告訴に着手してはいけません。

最初にやるべきことは、事実関係の調査です。

「本当に横領をしたのかどうか」「いくらの金銭を(何を)横領したのか」などの点を確認しましょう。

なぜ事実関係の調査から始めるの?

証拠が不十分なまま解雇に踏み切ってしまえば、横領などしていないのに解雇されたなどとして不当解雇を主張されたり、場合によっては名誉毀損による損害賠償も請求されたりしかねません。

また、被害金額が不確かなままでは、具体的に損害賠償請求することができません。

そのため、まずは横領・着服行為の有無と被害金額を確定するための調査を迅速に行うべきです。

証拠集めの流れ

客観的な証拠を集める

証拠集め

調査を行う際は、まずは会計帳簿や防犯カメラの映像など、横領行為を裏付ける客観的な証拠を集めましょう

通報者がいるケースでは、通報者からできるだけ具体的に聞き取りを行い、横領行為の具体的内容や時期を特定していきましょう。

もちろん、通報が虚偽で行われる可能性もゼロではありません。

通報者の説明内容に矛盾がないか注意しながらヒアリングを行いましょう。

事案に応じた証拠集めを

証拠集めは事案に応じて適切に行う必要があります。

経費を過大に請求して実際の経費との差額を着服されたというケースでは、従業員から提出された領収書が実際に必要な経費だったのかの裏取りをすることが考えられます。

いったんレジを通した後に、取消し機能を用いて売上を無かったことにし、その取り消した売上をポケットに入れるようなケースでは、操作記録(ログ)や現金記録を確認・保全することが考えられます。

集金で集めた売掛金の一部を着服されたケースや、取引業者からのキックバックの全部または一部を会社にも取引業者にも内緒で着服されたケースでは、取引先に対してアンケートを取るなどの方法が考えられます。

従業員が取引業者と結託してキックバックの一部を着服されたケースでは、その従業員が使っているパソコン内の情報やメールの履歴などをコピーして保存することが考えられます。

他にも、従業員がSNSを通じて公開している情報をコピーして保存し、横領行為に関する書き込みはないか、一定時期以降から金遣いが荒くなっていないかなどを確認することも考えられます。

同僚や関係者からの聞き取り

同僚や関係者から聞き取り調査をしようとするときにも注意が必要です。

無計画に調査を行うと、実は横領行為をした従業員と繋がっていて、調査していることがバレてしまい、証拠を隠されてしまう可能性があります。

人選や調査の順序は慎重に検討しましょう

まずは「動かぬ証拠」を集める

以上のような証拠集めは、刑事告訴をするときはもちろん、損害賠償請求や解雇の際に非常に重要な証拠になり得ます。

また、このような「動かぬ証拠」を先に押さえておかないと、横領をした従業員によって証拠を隠されたり、関係者と口裏合わせをすることで事実を隠蔽されたりするおそれがあります。

横領された可能性が高い場合には、その従業員に対して自宅待機を命じる必要があります。

これにより、さらなる横領行為を防止しつつ、証拠集めを邪魔されたり、ほかの従業員と口裏合わせさることを防ぐことを期待できます。

本人への聴取を行う

面接

証拠集めが一段落したら、いよいよ横領をしたと疑われる従業員本人からの聞き取り調査です。

もちろん、横領や着服は会社に隠れて行われ、発覚するまでに何回も繰り返し行われていることも少なくないため、十分な証拠が集まらないまま本人への聞き取りに移らざるを得ない場合もあります。

いずれにせよ、本人からの聞き取りでは、横領・着服の事実などを認めさせることを第一の目標に行うことになります。

聞き取りの予告はしない

聞き取り調査をするにあたり、あらかじめ従業員に対して「話があるから予定を空けておいて」などと伝えてしまうと、警戒されて証拠を隠されたり、聞き取り調査に応じない可能性もあります。

そこで、事前の予告なしに呼び出して部屋に誘導し、そのまま聞き取りを始めてしまうのがよいでしょう。

聞き取った内容の記録

聞き取り調査の場では、従業員の言い分を全て記録すべきです。

質問役とメモ役の2人で行うと効率的です。

ボイスレコーダーなどで録音できればなおよいです(あとで声が小さくて聞こえないといったことが起きないよう、事前にテストしておくとよいでしょう。)

横領の事実を否定されたら

従業員の話を具体的に聞き出し、言い分を全て記録しておくことで、これまでに集めた証拠との矛盾点や、言い分・説明自体の矛盾点が見えてくることがあります。

仮に従業員が横領の事実を否定したとしても、このような矛盾点を突くことで、最終的には横領の事実を認めることがあります。

そのため、従業員が素直に罪を認めそうにない場合には、弁護士など第三者に立ち会いを求めて、従業員の説明・言い分に対して冷静な視点からツッコミを入れてもらえるとよりよいでしょう。

横領を認めている場合

従業員が横領したことを素直に認めている場合でも、あとで言い分をひっくり返され、「言った言わない」の水掛け論に陥る可能性があります。

そこで、横領を認めている場合でも、横領したこと、いつ、どこで、何を横領したか、横領した金銭や物品を返還する意思があるかなどを聴取し、その内容を正確に記録しておきましょう。

可能であれば、横領の事実を認める内容の始末書を書かせましょう。

あらかじめ書類を作って名前だけ書かせるよりは、従業員自身に作成させた方が、従業員の直筆で書かれた書面が残るという点で、あとから否定される可能性が低くなります。

横領が事実であると明らかになったら?

悩み

調査の結果、従業員による横領が明らかになり、証拠が揃ったら、

  • 損害賠償請求
  • 解雇
  • 刑事告訴

という3つの対応が考えられます。

手段① 損害賠償請求

損害賠償請求の内容

横領を行った従業員に対しては、損害賠償請求をすることができます。

具体的には、横領されたお金の支払いや、物品の返還、物品が存在しない場合にはその物品の価額の賠償を求めることになります。

すぐに裁判を起こす?

裁判

「証拠があるのだからすぐに裁判を起こせばよいのではないか」と思われるかもしれません。

しかし、横領・着服行為から時間が経っていることが多いため、従業員が既に横領した金銭を使い切っている可能性が高いです。

また、不動産などの金銭的価値のある資産を持っておらず、賠償するのに十分な資産がないことも少なくありません

裁判をする場合には、以上のようなリスクを念頭においた上で訴えを起こし、被告となる従業員に資産がない場合は、和解手続の中で分割払いの取決めをして少しずつ回収していくことが現実的な解決になると思われます。

給料からの天引きはダメなの?

給料から天引きして賠償させるのは止めるべきです。

それは、労働基準法に規定された「賃金全額払いの原則」により、法令で認められた源泉徴収や社会保険料の控除など以外には、賃金の一部を差し引いて支払うことが禁止されているからです。

もちろん、この原則にも例外はあり、従業員の同意を得ていれば、給料と損害賠償請求権とを相殺してよいことにはなっています。

しかし、ここで言う「同意」が問題になります

判例では、相殺の同意が「労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する」場合であれば労基法に違反しないが、相殺の同意が「労働者の自由な意思に基づくものであるとの認定判断は、厳格かつ慎重に行わなければならない」として、かなり厳格な審査が行われることになっています。

つまり、従業員がその自由意思に基づいて(会社に脅されたり、強制されたりすることなく、自ら望んで)相殺に応じたことが第三者から見ても明らかであると言えるような事情があり、そのような事情の存在を裏付ける証拠がなければいけないことになります。

身元保証人にも払ってもらえるか

従業員の親族などとの間で身元保証契約を締結し、身元保証人が従業員と連帯して責任を負うことの合意があれば、身元保証人に対して損害賠償請求を行える可能性があります。

ただし、注意しなければならないのは、身元保証期間や身元保証人が責任を負う範囲が限定されるということです。

身元保証期間については、契約書で期間を設定していない場合には3年、期間を定めた場合でも最長5年に制限されます。

自動更新条項は、無効とされています。

そのため、更新を怠っていると、いざ身元保証人に請求しようとしたら期限切れだったということもありえます。

身元保証人の責任の範囲については、会社の監督状況についての過失、身元保証契約を結ぶに至った経緯、身元保証契約を締結する際の注意喚起、その他の事情を考慮して、できるだけ限定する方向で判断されます

裁判例では、全額の連帯責任を認めたものもありますが、賠償額全体の2割から6割程度に減額されたものもあります。

なお、身元保証契約を結ぶ際に、契約書の名前を例えば「連帯保証契約書」にしたとしても、裁判では、契約の内容から、連帯保証契約ではなく身元保証契約であると判断されることもあります。

手段② 解雇

では、横領を働いた従業員を解雇するにはどうすればよいのでしょうか?

就業規則のチェック

就業規則のチェック

まずは就業規則からチェックしましょう。

就業規則の解雇事由や懲戒解雇事由に「横領」や「着服」、「職務上の非違行為」といった記載があれば、その規定に基づいて、横領を働いた従業員を解雇することができます。

就業規則はあるが、普通解雇事由に横領とは書いていないといったケースもあると思います。

このような場合でも、もう一度就業規則をよく見てください。

解雇事由の最後の規定に「その他、前各号に準ずる事由」などの規定が置かれていることが多いです。

事案によりますが、横領が会社に直接的に損害を与える非違行為であることから、「前各号に準ずる事由」に該当し、普通解雇事由として認められる可能性が高いと考えられます。

就業規則に記載がない場合

就業規則に横領も書いていないし、準ずる事由とも書いてなかったというケースではどうでしょうか。

このような場合には、横領行為の期間や被害金額、被害弁償の有無などが問題になると思われますが、会社に対する直接の非違行為であることから、普通解雇できる場合が多いと考えられます。

懲戒事由に横領が書かれていない場合に懲戒解雇ができるかどうかという問題があります。

懲戒事由については、限定列挙であると解されています。

つまり、懲戒事由に「横領」や「着服」、「職務上の非違行為」などの記載がない場合には、懲戒権は発生せず(または発動できず)、懲戒解雇ができないことになります。

不用意な解雇・懲戒解雇は危険

弁護士に相談

以上をお読みいただいた方の中には、普通解雇であれば、自由に横領した従業員を解雇できるのだと思われた方もいらっしゃるかもしれません。

また、懲戒事由に「横領」等の記載があれば、横領した従業員を自由に懲戒解雇できるのだと思われた方がいらっしゃるかもしれません。

しかし、そのような考えは危険です。

なぜなら、解雇権濫用法理や、懲戒権濫用法理といった、労働者を保護するための規定や判例法理が確立されており、不用意な解雇・懲戒解雇が事後的に無効と評価されるリスクがあるからです。

仮に従業員を解雇して、それが後から無効とされた場合には、解雇がなければ払わなければならなかったはずの給料の支払いが命じられ、非常に大きな代償を払わされることになりかねません。

解雇や懲戒解雇ができるかどうか、それらを行うためにどのような手続をとらなければならないか、解雇等が難しそうだとなった場合、ほかにどのような手段を取ったらよいかなど、判断が難しいものが多くあります。

まずは弁護士にご相談いただき、とるべき手段を一緒に検討することをお勧めいたします。

手段③ 刑事告訴

刑事告訴とは

刑事告訴

業務として会社から預かっている金銭や物品を費消したり、売却したり、人に贈与したりすると、刑法が定める「業務上横領罪」に該当し、10年以下の懲役が科せられます。

横領を行った従業員に対して刑事上の責任を問いたい場合は、警察または検察に対して告訴する必要があります。

つまり、会社が捜査機関に対して横領を行った従業員による犯罪事実を申告し、処罰を求める意思表示をするのです。

刑事告訴の方法

法律上は口頭での告訴も可能ですが、横領行為の内容や被害額などを具体的に説明するために、告訴状などの書面を出す方が望ましいです。

また、横領の事実を証明できる客観的な証拠と合わせて提出することで、捜査機関が告訴を受理して捜査に取り掛かってくれる可能性が高くなります。

告訴の結果、横領を行った従業員が逮捕されたりすれば、適正な刑事責任を問える可能性がありますが、それ以外にも、会社にとって次の2つのメリットがあります

刑事告訴のメリット① 賠償を受けられる可能性が高まる

まず、横領された金銭や物品の賠償を受ける可能性が高くなります

被害者である会社との間で示談が成立するかどうかにより、横領を行った従業員に対して科される刑事罰の重さが変わってくることから、従業員側から賠償の申し出がされる可能性があるからです。

たとえば、刑事裁判が終わるまでに横領を行った従業員が会社に賠償して示談が成立していると、執行猶予が付いて刑務所に服役しなくて済むようになったり、あるいは、執行猶予は付かないものの、刑務所に服役する期間が短くなったりします。

もちろん、横領を行った従業員やその家族などが賠償できるだけのお金を用意できなければ示談できませんので、必ずお金が返ってくるわけではありません

刑事告訴のメリット② 社内秩序を維持できる

もう一つは、ほかの従業員に対して会社の対応を示して社内秩序を維持する効果があることです。

会社は横領などの不正行為をした従業員に対しては毅然とした対応をとるのだという姿勢を示すことで、同種の非違行為の再発防止やコンプライアンスの向上に資することができます。

従業員の横領が発覚したら

事案に応じた対応を

以上に説明した損害賠償請求、解雇、刑事告訴という3つの対応は、全てを行っても構いませんし、「被害弁償はしてもらいたいが、解雇や刑事告訴まではしたくない」といった対応でも構いません。

会社の被害額、横領を働いた従業員の会社内の地位・立場、反省の態度を示しているかどうか、ほかの従業員への影響等を考慮して、ふさわしい対応を検討しましょう。

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弁護士澤戸博樹

「会社のお金や財産を横領するような問題社員は一刻も早く解雇してしまいたい」と思われるかもしれませんが、安易に解雇して、あとから不当解雇とされると、会社に多額の金銭の支払い義務が生じることもあります

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