業務手当、配送手当、長距離手当などを支給する運送業者は残業代を支払わなくてよいか?
運送業では、ドライバーに対し「業務手当」「配送手当」「長距離手当」などの名目で手当てが支給されている場合があります。
では、これらの手当てが支払われていれば会社は残業代を支払わなくてもよいのでしょうか。
就業規則や賃金規程の規定が重要です
結論からいうと、改めて残業代を支払わなければならない場合があります。
特に「業務手当」「配送手当」「長距離手当」など、一見して固定残業代としての手当てだと分かりにくい名称の手当てで残業代を支払っている場合は注意が必要です。
労働者が残業代の支払いを求めて裁判になった場合には、これらの手当てによって残業代が支払われているとは認められず、改めて残業代の支払いを命じられる可能性があります。
一度、労働者(または元労働者)から残業代請求の裁判を起こされて負けてしまうと、他の労働者からも同じような請求を芋づる式に起こされ、莫大な金額の未払い残業代を余儀なくされるおそれがあります。
このような事態を防ぐためには、就業規則や賃金規程などに、これらの手当てを「時間外手当とし、割増賃金を算定する基礎賃金に含まない」旨を明記して、この内容を従業員に周知させるべきです。
手当てについて定めるときの注意点
手当てについて定めるときに注意しなければいけないのは、基本給と固定残業代の手当てとがバランスを欠かないようにすることです。
なぜなら、基本給と固定残業代とがバランスを欠く場合、残業代を支払ったとは認められない可能性があるからです。
過去の裁判例では、固定残業代の金額に比べて残業時間が多すぎることを問題視されるなどして、手当てが残業代に当たらないと判断されたものがあります。
マーケティングインフォメーションコミュニティ事件(東京高判平成26年11月26日・労判1110号46頁)
- ガソリンスタンドの運営等を業とするX社は、「営業手当」の名目で残業代を支払い、就業規則にもそのことを書いていました。
- しかし、裁判所は、「営業手当」の金額は100時間分の残業代に相当するが、恒常的に100時間も残業させることを前提に「営業手当」の支給が合意されていたとは認められないなどとして、「営業手当」は残業代に当たらないと判断しました。
トレーダー愛事件(京都地判平成24年10月16日・労判1060号83頁)
- ホテル業を営むY社は、「成果給」の名目で残業代を支払い、就業規則と給与規定にもそのことを書いていました。
- しかし、裁判所は、所定労働時間内と残業時間内とで業務内容が異ならないにもかかわらず、残業代(時給換算で約1800円)として基本給(時給換算で約890円)の倍の給料が支給されており、あまりにもバランスを欠いているなどとして、「成果給」は残業代に当たらないと判断しました。
最後に
このように、会社としては手当ての名目で残業代を支給しているつもりでも、裁判で残業代が支払われていると認められず、不測の損害を被ってしまうリスクがあります。
そのようなリスクを避けるために、既存の就業規則や賃金規程に不備がないかよく確認しておく必要があります。
たくみ法律事務所では、就業規則や賃金規程に問題がないか弁護士がチェックを行い、残業代請求のリスクを回避するための対策を行うことができます。
また、退職した従業員から未払い残業代を請求されてしまったときも、個別の事案に応じた適切な対応をアドバイスをいたします。
運送業の残業代問題でお困りのときは、使用者側専門のたくみ法律事務所の弁護士にご相談ください。