運送業で労働者からパワハラで損害賠償請求されたら
パワハラ(パワーハラスメント)は、厚生労働省によれば次のように定義されています。
① 同じ職場で働く者に対して、
② 職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、
③ 業務の適正な範囲を超えて、
④ 精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為
この記事では、パワハラが発覚したときの対処法について運送業の経営者様向けに解説します。
まずパワハラとは何かを理解しましょう
パワハラが発覚したとき、加害者となった従業員や経営者の方からよく聞かれるのが「業務において必要な指導・指示であり、パワハラには当たらない」という反論です。
しかし、パワハラの被害者が訴えを提起したとき、パワハラがあったかどうか最終的に判断するのは当事者ではなく裁判所です。
企業のコンプライアンス体制に厳しい目が向けられている昨今、「この程度でパワハラになるとは思っていなかった」という言い訳は通用しません。
パワハラによるリスクから会社を守るためには、どのような行為がパワハラに該当する可能性があるか、経営者様ご本人がよく理解することが第一歩となります。
パワハラの6つの類型
では、具体的にどのような行為がパワハラに該当するのでしょうか。
厚生労働省は、関する過去の裁判例や個別労働関係紛争処理事案をもとに、パワハラを次の6つの類型に整理しています。
- 身体的な攻撃
- 精神的な攻撃
- 人間関係からの切り離し
- 過大な要求
- 過小な要求
- 個の侵害
運送業においては、次のような行為がパワハラに該当する可能性があります。
① 身体的な攻撃
- ミスをしたドライバーの胸ぐらを掴んで叱責する。
- 椅子を蹴飛ばしたり、書類を机に叩きつけるなど、威圧的な行為をする。
② 精神的な攻撃
- 「こんなミスをするやつは死んでしまった方がいい」「お前は給料泥棒だ」など、ドライバーの人格を否定するような発言をする。
- ほかのドライバーの前で長時間にわたって叱責を続ける。
③ 人間関係からの切り離し
- 特定のドライバーを仲間外れにしたり、無視したりする。
④ 過大な要求
- 明らかに遂行不可能な配送ノルマをドライバーに強要する。
⑤ 過小な要求
- 正当な理由がないにもかかわらず、給与が大幅に下がる事務職にドライバーを配転する。
- 特定のドライバーに仕事を回さないように配車担当者に指示をする。
⑥ 個の侵害
- 年次有給休暇を取得するドライバーに詳細な理由を執拗に尋ねる。
パワハラを放置すると?
社内のパワハラを放置していると、会社にどのようなリスクがあるのでしょうか。
被害者に対する損害賠償義務を負う
使用者は、各労働者に対して、働きやすい職場環境を維持するよう配慮する義務(職場環境配慮義務)を負っています。
パワハラを放置していると、職場環境配慮義務を怠ったとしてパワハラの被害者から損害賠償請求をされるおそれがあります。
職場環境が悪化する
運送業において人手不足の問題は深刻です。
パワハラを放置することにより、職場環境が悪化し、優秀な人材を失ってしまったり、ドライバーのメンタルヘルスに悪影響を及ぼすおそれがあります。
社会的な評価を失う
パワハラを行った事実が報道などによって広く知られれば、顧客や取引先の信用を失ったり、「ブラック企業」というレッテルを貼られ採用が困難になるおそれがあります。
パワハラが発覚したら
では、社内でパワハラが発覚したときにはどのような対処をすればよいのでしょうか。
事実関係の調査と加害者への処分
まずは被害者、加害者、目撃者などへの聞き取りなどを行って事実関係を調査し、パワハラが行われたのが事実であると判明したら、加害者となった従業員に対してしかるべき処分を検討しましょう。
ただし、懲戒処分を行うためには就業規則に懲戒事由が定められており、それが労働者に周知されている必要がありますので注意が必要です。
また、パワハラを行った従業員に対して安易に懲戒解雇を行えば、処分が不当に重すぎるとして解雇無効を争われ、多額の金銭の支払いを請求されるおそれがあります。
損害賠償請求への対応
被害者となった従業員から使用者の職場環境配慮義務違反による損害賠償を請求された場合には、相手方の請求が正当な理由に基づくものか慎重に確認したうえで、会社としてどのような反論が可能なのか検討する必要があります。
具体的には、業務上必要な指導・指示の範囲内でありパワハラには当たらないという反論や、被害者側が求めている損害賠償額が過去の事例と比べて高額すぎるという反論を行うなど、個々の事案によってさまざまです。
交渉による和解が困難な場合には裁判で争って判決を求めることも考えられますが、どのような方法で解決すべきかは弁護士のアドバイスのもとで経営者様のご意向によって判断していきます。
再発防止策を講じる
一つのパワハラ事案が解決したとしても、パワハラが発生した根本的な原因を解消しなければ同じような事案が再発してしまうおそれがあります。
何がパワハラに該当するのか従業員全員に理解してもらい、パワハラを防ぐための方法を社内に浸透させるため、専門家による研修や教育を行いましょう。
事後的な対応を誤ればさらなる風評被害を招き、会社の評判が回復不可能なほど失墜してしまう可能性があります。
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