はじめに
国土交通省は、令和7年6月5日、日本郵便に対し、一般貨物自動車運送事業の許可を取り消す方針であることを通知しました。
正式な処分は6月18日の聴聞手続を経てからになりますが、郵便物やゆうパックなどの運送に全国的な影響が生じることは避けられないでしょう。
今回、日本郵便の運送事業許可取消の要因となったのは、アルコールチェック(呼気検査等)の未実施です。
今回の記事では、そもそもアルコールチェックの実施とはどのような義務なのか、誰が守るべき義務なのか、アルコールチェックを行わないとどうなるのか、及び、アルコールチェックを実施するうえでの注意点、などについて解説していきます。
1. アルコールチェックとは

運送業では、ドライバーの飲酒運転を防止するため、運転前後に、アルコールチェックを行わなければならないとされています。
アルコールチェックとは、アルコール検知器を用いて呼気中のアルコール濃度を測定し、基準値を超えていないかの確認を行うものであり、点呼の際に運行管理者の面前で行われることが原則です。
なお、2023年12月1日からは、緑ナンバー事業者に加えて、白ナンバー事業者(自社製品を白ナンバーで輸送する事業を行う者)の一部にも、アルコール検知器を用いたアルコールチェックが義務化されました。
緑ナンバーを使用していない事業者であっても、一定数以上の車両を保有する事業者は、自社が義務化の対象となっているかどうか、今一度確認する必要があります。
白ナンバー事業者へのアルコールチェックが義務化されたことについて詳しく知りたい方は
こちらの記事もあわせてお読みください
白ナンバー事業者に対して検知器によるアルコールチェックが義務化されました
2. アルコールチェックの義務に違反するとどうなるか
点呼時のアルコールチェックの未実施が判明すると、その違反の程度に応じて、是正命令を受けたり、罰金が課されたりすることになります。
また、違反の程度や態様から悪質と判断される場合は、運行禁止処分(一定期間の運行を禁止されること)や営業停止処分、最悪の場合は事業許可取消処分などの行政処分がなされることもあります。
もちろん、酒気帯び運転をしたドライバー自身も刑事罰や行政罰(罰金、免許減点、免許取消等)を受けることになりますし、酒酔い運転により人を死傷させてしまった場合は、危険運転致死傷罪として非常に重い刑罰を受けることもあります。
加えて、ドライバーが事故を起こした場合は、会社も、使用者もしくは運行供用者として、被害者に生じた損害を賠償する責任(民事上の責任)を負うことになります。その他にも、飲酒運転を防げなかったとして、会社の社会的信用が低下・失墜することにもなりかねません。
なお、アルコールチェックが未実施になってしまう要因としては、そもそも点呼が未実施であったり、点呼の方法が不適切であったりする場合が挙げられます。
3. アルコールチェックにおける注意点

アルコール検知器の確保
アルコールチェックは、点呼の際にアルコール検知器を用いて行う必要がありますので、同機材の確保が不可欠です。
近年は、半導体の価格高騰などにより、検知器をすぐに手に入れることが困難な場合もあります。
まだ検知器を導入していないもしくは検知器の取り換えが必要な時期にきている事業者は、早めに検知器の確保に動くべきです。
検査の実施の徹底
点呼時に運行管理者の面前でドライバーにアルコールチェックを行わせることが原則ですが、特に長距離運送を行っている会社では、乗務の開始が遠隔地になることもあります。
その場合は、事前に運転者に携帯型のアルコール検知器を携行させる必要があります。
実施結果の記録
アルコールチェックを実施した事がわかるよう、運転日報などにきちんと記録しましょう。
当然ですが、アルコールチェックで基準値以上のアルコールが検出されたドライバーには運転させてはいけません。
たとえ、代わりの人材がすぐに確保できないなど、業務に支障が生じる場合であってもです。
アルコールチェックを忘れてしまった場合
何らかの事情でアルコールチェックを実施できなかった(実施しなかった)場合、一番行ってはならない対応は、未実施の事実を隠すことです。
例えば、運転日報に虚偽の報告(アルコールチェックを実施していないのに実施したかのような記載)を記載したりすると、違反の程度が悪質であると判断されやすくなり、運行禁止処分や営業停止処分などの重い行政処分を受けることになりかねません。
4. 終わりに
アルコールチェックや点呼の未実施は、重大事故の発生に繋がる可能性があるのみならず、会社が罰則や行政処分等を受けることで、その後の業務運営にも大きな支障を生じさせることになりかねません。
アルコールチェックを毎回実施するのは確かに手間ですが、その違反により生じる不利益の大きさを理解したうえで、会社(運行管理者)とドライバーの双方が決まりを守る意識を持つことが重要です。
また、アルコールチェックの実施について疑問点や懸念点がある場合や、違反してしまった場合の対応についてのお悩みの際は、一度弁護士などの専門家に相談してみることをおすすめします。
弊所には、運送業者様の顧問先が多数ありますので、運送業の紛争対応の経験が豊富な弁護士が多数在籍しています。
※参照
国交省HP 自動車運送業におけるアルコール検知器の使用について
警察庁HP 安全運転管理者の業務の拡充等
お問い合わせはこちら
