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ソフトウェア開発委託やクラウドを活用したウェブアプリケーションの開発委託は、取引額が数百万円から数千万円に及ぶような大きな取引となることがあります

その一方で、開発会社(「ベンダー」)と委託会社(「ユーザー」)間で取引について認識のズレが生じやすく、紛争に発展しやすい取引でもあります。

ソフトウェア開発委託契約の特徴

契約書の重要性

ソフトウェア開発委託契約において契約書をきちんと作成しておくことは、①合意内容を明確にして紛争を予防し、②万が一紛争化した場合に重要な証拠とできる点で不可欠であるといえます。

もっとも、このような効果は、契約書が法的に適切に作成されており、契約書に従った業務が遂行されて初めて享受できるものです。

雛形を使用するリスク

弊所にご相談にいらっしゃる方の契約書を拝見すると、ネットや書籍で公開されている契約書の雛形をそのまま実際の契約で使用しているケースも見受けられます。

しかしネット上や書籍で公開されている契約書のひな形は大規模なシステム開発委託契約を前提に一般的なものとして作成されているため、個別具体的な取引にそぐわない規定も存在します。

また、契約交渉の観点からはなるべく自社に有利な内容での合意を目指すべきですので、条項を一つ一つ確認し、思わぬ不利益に繋がるような規定がないか確認する必要があります。

ところがソフトウェア開発委託契約は条項数が多くなることが多いため、自社の取引ではどこが重要になるのかがわかりにくい場合もあるかと思います。

そこで今回はソフトウェア開発委託契約について特に重要なポイントを解説いたします。

特に注意すべきポイント

報酬と業務内容

悩み

報酬と業務内容は、委託契約書の中で最も重要な規定です。

小規模な開発で、契約締結時に作業量等が確定できるものであれば、最初から契約書に報酬や業務内容、成果物を決めておくことも定めておくことが考えられます。

もっとも、大規模な開発となると、要件定義や基本設計などの段階ごとに費用の見積もりを取り直す場合も多いでしょう。

また、小規模な開発でも、開発途中で新たな機能追加が必要になるなど、追加作業が必要となる場合があります。

このような場合には、取引全体の基本的なルールについて「基本契約」で取り決めたうえで、委託業務の段階ごとに「個別契約」を締結してその都度報酬と業務内容の範囲を決めるように規定することが考えられます。

また、追加業務が必要になった場合には、個別契約を別途合意する旨を規定することで、追加費用を請求できる余地を残すこともできます。

契約後の協議方法に関する規定

ソフトウェア開発委託契約では、まず要件定義を行ってから設計・開発に入りますが、設計や納品の段階になって、ユーザーから「希望したはずの機能が入っていない」などと指摘されて揉めることが往々にして起こります。

このような「言った言わない」の紛争を防止するため、ベンダーとユーザー間の話し合いにあたっては、定期的に協議会(ミーティング)を設け、そこでの議事録を作成することが効果的です。

協議会の開催と議事録作成について契約書に規定しておくことで、当事者双方が協議方法について認識し、記録に残らない形で開発に関する合意がなされることを予防できるからです。

検収の方法

検収とは、ユーザーがベンダーから納入された成果物の内容を検査することをいいます。

ソフトウェア開発委託契約では、仕事を完成させて初めて報酬を請求することができます。

そして、ソフトウェア開発における仕事の完成は、「仕事が当初の請負契約で予定していた最後の工程まで終えているか否かを基準として判断すべき」とされています(東京地判平成14年4月22日判タ1127号161頁)。

検収の完了は、仕事が完成したかを判断するための重要な基準となります。

そのため、検収・引き渡しの手続きを契約書において明確にしておくことが必要です。

著作権についての取り決め

作成したプログラム等は著作権によって保護される場合があるため、著作権が誰に帰属するかを明確にする必要があります。

ベンダーとしては、一度開発したプログラム等を会社の資産として将来再利用したいと考えるのが通常でしょう。

そのため、ベンダーがソフトウェア開発契約の前から独自に有していたプログラム等の著作権はベンダーに留保することを明記するなどして、ベンダーの著作権を保護し、再利用を可能にしておくことが考えられます。

契約不適合責任

契約不適合責任とは、検収後のプログラムに不具合が見つかった場合にベンダーが負う補修や損害賠償等の責任です。

ソフトウェアの納入・検収後にバグが見つかることはありえますが、いつまでベンダーが責任を負うかについて明確にしておくことで、将来の不具合対応について予測を立てることができます。

具体的には、「検収後○か月以内にユーザーから契約不適合の通知がない限りベンダーは責任を負わない」などの文言を規定することが考えられます。

最後に

弁護士荻野

今回はソフトウェア開発委託契約書において特に重要なポイントを解説しました。

ただ、契約書は作成して終わりではありません。

契約書が存在しても、契約書で定められた手続きがきちんと履行されなければ、紛争予防や裁判における証拠の確保という意味での契約書の効果はほとんどなくなってしまいます。

したがって、まずは委託業務の実態や規模感を反映した契約書を作成し、それに沿って業務を行うことが大切になります。

もっとも、自社のみで法律上有効かつ開発業務の実態を反映させた契約書を作成することは困難な場合もあるかと思います。

弊所では、お客様から取引の内容や規模などをヒヤリングした上で、実態に即した契約書の作成を行っております

ソフトウェア開発契約書の作成についてお悩みの際には是非ご連絡ください。

  • 荻野哲也弁護士
  • この記事を書いた弁護士

    荻野 哲也(おぎの てつや)
    たくみ法律事務所 福岡オフィス所属
    福岡県朝倉市出身。久留米大学附設中学・高校、早稲田大学、同法科大学院を経て、司法試験に合格。学生時代にプログラミングを趣味にしており、IT企業のご支援、システム開発を巡る紛争の解決、システム開発業務委託契約書の作成・チェックに特に注力。広告法務(薬機法・景表法等)、個人情報保護法関連も得意としている。
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