記者会見

近年、セクハラ・パワハラを始め、不倫や脅迫の証拠として、ICレコーダーの録音データが明るみに出ることが増えています。

公務員のセクハラ問題も記憶に新しいところですが、相手に黙って録音した音声データ、これも裁判の証拠になるのでしょうか?

裁判所の判断

秘密録音

裁判所は、相手方に黙って録音した音声データであっても、原則、証拠として採用できるとしています(このことを「証拠能力が認められる」と表現します。)。

東京高裁(昭和52年7月15日判決)の事案では、裁判所は、相手に黙って録音した音声データの裁判での有効性(証拠能力)について、次のように判断しました。

  • その証拠が、著しく反社会的な手段を用いて、人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によって採集されたものであるときは、それ自体違法の評価を受け、その証拠能力を否定されてもやむを得ないものというべき」であり、

  • 「話者の同意なくしてなされた録音テープは、通常話者の一般的人格権の侵害となり得ることは明らかであるから、その証拠能力の適否の判定に当っては、その録音の手段方法が著しく反社会的と認められるか否かを基準とすべきものと解するのが相当である。

つまり、音声データが「著しく反社会的な手段を用いて、人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によって採集されたもの」でない限り、証拠として利用可能ということになります。

証拠としての価値

ただし、証拠として採用できるのか(証拠能力が認められるのか)という問題と、その証拠に価値があるのか(その証拠から、たとえばセクハラ・パワハラがあったと認められるのか)という問題は別です。

音質が悪かったり、誰との会話か特定できなかったり、決定的な発言が録音されていない場合等は証拠としての価値が低いといえ、重視されないことになります。

証拠能力が皇帝された事例

東京地判 昭和46年4月26日判決

原被告間で借金の返済等につき会談がなされている間、被告に断らず、隣室のテープレコーダーにて、会談を録音した事案です。

なお、上で説明した東京高裁判決以前の事案です。

東京高判 昭和52年7月15日判決

原告の代表者が、被告の会社内の友人を通じて被告の従業員を酒席に招待し、種々誘導的な質問を行って諾否のみ回答させる方法によって会話し、襖を隔てた隣室で録音テープに収録していた事案です。

「不知の間に録取したしたものであるにとどまり」、反社会的な手段ではないとされました。

盛岡地判 昭和58年8月10日判決

加害者不明で、一旦迷宮入りした16年前のひき逃げ事故で、被告及び会社関係者に黙って、ホテル・社内等での会話を録音した事案です。

腕を怪我したかのように装い、包帯でマイクを隠して収録した事案で、積極的な誘導はあるが、恫喝・強制はないとされました。

証拠能力が否定された事例

大分地判 昭和46年11月8日判決

「相手方の同意なしに対話を録音することは、相手方の人格権を侵害する不法な行為と言うべきであり、民事事件の一方の当事者の証拠固めというような私的利益のみでは未だ一般的にこれを正当化することはできない」として証拠能力は否定されました。

※上で説明した東京高裁判決以前の事案で、録音内容は不明です。

東京高判 平成28年5月19日判決

大学職員に対する上司のパワハラ・セクハラが問題になった事案です。

学内のハラスメント防止委員会での協議内容を盗聴した録音テープの証拠能力が問題になりました。

原告は、匿名の第三者から録音テープを学内便によって受け取ったとしましたが、同委員会では個人情報の中でも秘匿性の高い情報を扱っていること、委員の自由な発言を保証するため非公開・録音禁止の運用がされていたこと等から、証拠能力が否定されました

会社としての対応

研修

以上のとおり、相手方に黙って録音した音声データであっても、裁判では原則として証拠になります。

しかし、「録音されているかもしれない」と疑心暗鬼になるのではなく、そもそもセクハラやパワハラは許されない不法行為といえますので、社内研修や相談窓口等の社内体制を設けて、発生・再発を防止することが重要です。

弊所でも、社内研修やヘルプラインの構築に協力させていただいています(弁護士による研修・セミナーサポートについてはこちらをご覧ください。)。

また、会社としては、自己防衛策としてあえて録音をすることが考えれます。

例えば、従業員や取引先から、「そんな説明は受けていない」「脅迫された」等と言われることを防ぐために、重要な会議の場面で録音をする等がこれに当ります。

自己防衛策として、前向きに検討してみてはいかがでしょうか。

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