利用規約とは

弁護士荻野哲也

ウェブサービスを利用すると、必ずと言っていいほど「利用規約」が提示されます。

読み飛ばして、「利用規約に同意する」ボタンを押した経験のある方も多いんじゃないでしょうか。

そんな利用規約ってなんなんでしょうか?

利用規約について公的な定義があるわけではありませんが、利用規約とは、「サービスを提供する事業者が利用者向けに作成・提示する、サービス利用上のルールや事業者・利用者間の関係性をまとめた文書」と言われます。

利用規約はそもそも必要なのか?

利用規約って作成が必要なのでしょうか?

利用規約は、法律で作ることが強制される文書ではなく、利用規約を作らずにサービスを提供することも可能です。

しかし、ウェブサービスをはじめとして、多数を相手にサービスの提供を行う場合、多くの場合は利用規約が作成されており、弁護士の立場からも作成をおすすめします。

その理由は、多数のユーザーとの間でルールを一括して取り決めることができ、クレームや紛争、利用者による違反行為などの対処において有用となるからです。

ユーザーとの間でルールを一括して取り決められる

利用規約は、事業者がサービス提供前に作成し、利用規約に同意した全ての利用者に適用されます。

多数の利用者を抱えるサービスにおいて、各利用者ごとに契約書を作成しなければならないとすれば、それ自体大変な手間です。

また、ユーザーごとに契約内容を修正していては、修正のコストも、その管理コストも膨大なものとなります。

利用規約は、各利用者ごとに内容を変更することを想定しておらず、多数の利用者において共通のルールを取り決めることで、事業者のコストを減らす点で大きなメリットがあります。

サービスに関してトラブルが発生した場合の対処に役立つ

また、そのルールは自社にとって望ましいものにすることが可能です(ただし、必ずしも一方的に有利にできるわけではありません)。

仮に利用規約がなかった場合、事業者と利用者とは、民法が適用されることとなります。

民法においては、損害賠償や契約解除に関するルールはありますが、その内容は必ずしも使い勝手が良いものではありません。

例えば、民法では、不可抗力でサービスが提供できない場合には損害賠償責任を負わないとされます。

しかし、何が不可抗力にあたるかは具体的に規定されていません。

利用規約で、通信障害によってサービスが提供できなくなったことを不可抗力として免責事項に規定しておけば不可抗力でサービスが提供できなくなった場合の防御に役立ちます

そして、利用規約は、一定の条件を満たした場合に契約の内容とすることができます

これにより、万が一裁判にまで発展した場合には、利用規約の内容が事業者と利用者間の法的に有効な取り決めとして扱われることとなります。

また、裁判までいかなくとも、違反行為を行った利用者に対して登録解除等の処分を行う場合に、利用者の理解を得られやすいという事実上のメリットがあります。

利用規約に記載すべき内容

利用規約の必要性・重要性がわかったところで、利用規約に記載すべき内容として特に重要な事項について解説します。

サービスの内容・保証範囲

利用規約においては、事業者が提供するサービスの内容やその範囲について、利用規約の中で規定しておく場合があります。

提供するサービス内容が明確になっていることは、利用者にとっても分かりやすい利用規約といえるでしょう。

しかし、利用規約の記載ぶりによっては、事業者が広範な義務負ったり、想定していない義務を負う可能性があります。

そのため、事業者によるサービスの対象外であることを明確化しておきたい事項がある場合には、サービスの保証外である旨を利用規約に書き込んでおく例もあります

利用者の遵守事項・禁止事項・ペナルティ

サービスが多くの人に利用されることは大変喜ばしいことですが、利用者が増えれば増えるほど、想定外の利用をされる可能性や問題となる行為も増えます。

そのため、利用規約の中では、利用者の共通ルールとして、顧客が守らなければならないこと(遵守事項)やしてはならないこと(禁止事項)を、できる限り網羅的に記載しておくべきです。

例えば、会員登録して月額料金を支払うアカウントに一定の機能を提供するウェブサービスにおいて、アカウントを他人に利用させる行為は、本来であればもう1アカウント分の月額料金を得られたかもしれないのにそれができなくなるため、事業者としては望ましくありません。

このような場合には、「本サービスの他の利用者のIDまたはパスワードを利用させる行為」を禁止するルールを決めることが考えられます。

禁止行為を明確に規定しておくことで、このような問題が発生した場合に、規約内容を提示することで、違反者も引き下がる可能性を高めることができます。

遵守事項・禁止事項を定めると同時に、それらに違反した場合のペナルティも定める必要があります

違反者はサービスの熱心な利用者である場合も少なくありません。

そのような利用者は、知らないうちに規約に違反している場合もあり、指摘を受ければ規約違反を辞めて利用を継続してくれる場合もあります。

そのため、軽微な違反の場合は、警告やサービスの一時利用停止などの軽度のペナルティを用意しておくことが考えられます。

一方で、悪質な違反者については、すぐに利用停止や契約解除をできる旨を定めておくことで対処することも必要となります。

免責規定

事業者としては、サービスに関連したトラブルによって、利用者から損害賠償や返金を求められた場合、できる限りその責任を負いたくないと考えるのが通常です。

そのため、利用規約において、

サービスに関連して利用者に生じた損害について、事業者は責任を負わない

という内容の規定(免責規定)を置くことが一般的です。

では、どのような場合でも一切責任を負わないという内容の免責規定は有効でしょうか?

結論をいえば、これはできません。

というのも、利用規約のうち消費者を当事者とする場合は、消費者契約法が適用されるからです。

消費者契約法では、第8条1項1号において、事業者の全部の責任を免除する条項は無効とし、2号において、事業者の故意又は重大な過失による債務不履行責任を一部免除する条項を無効としています。

第八条

次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。

一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

二 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項

この条項によって、消費者を相手方とする場合には、「どのような場合でも一切責任を負わない」というような規定はできないのです。

もっとも、消費者契約法を反対に解せば、

事業者の通常の過失(故意・重大な過失ではない)による債務不履行によって生じた責任の一部を免除する

という条項は有効となります。

そのため、現在、多くの利用規約においては、「当社に故意又は重過失がある場合を除き、●万円を上限として賠償します。」などの規定が置かれています

利用規約の変更に関する規定

サービス内容の見直しなどに伴い、利用規約の内容を変更したい場合があるかと思います。

通常の契約関係では、契約内容を一方的に変更することはできません

変更の度に契約書を作り直したり、覚書などで契約内容を追加していくことが必要となります。

しかし、多数の利用者が存在するサービスでは、各利用者ごとに契約を結び直すことは現実的ではありません

一方で、利用規約の変更後、以前の契約者に対して変更後の利用規約を適用できないと、同様のルールによる管理ができなくなってしまいます

そこで、令和4年4月1日施行の改正民法により利用規約が「定型約款」(民法548条の2第1項)に該当する場合、一定の要件を満たせば、利用規約の変更により、利用者の同意がなくても契約内容を変更できるものとされました(民法548条の4第1項)。

「定型約款」に該当する要件は厳しく、全ての利用規約が定型約款に該当するようなものではないとされます。

しかし、定型約款が令和4年の民法改正から新設された概念であり、どのような利用規約であれば「定型約款」にあたるのかについては具体例に乏しい状況です。

そのため、現在の実務では、利用規約が「定型約款」にあたることを前提に、「定型約款」としての変更の要件を満たすよう、契約内容の変更に関する規定を置くことが必要とされます。

具体的には、契約を変更する場合の利用者への周知方法、周知から一定期間後に契約変更の効果が生じる旨などを規定します。

準拠法・裁判管轄

ウェブを通じてサービス提供する場合、遠隔地の利用者や海外の利用者に対してもサービスを提供できることは大きなメリットです。

しかし、万が一、遠隔地の利用者との間で裁判せざるを得なくなった場合、どの裁判所を管轄とするかで揉めることがあります。

裁判においては、担当者が裁判に出席する場合がある他、弁護士が遠方の裁判所に出張する場合には旅費・日当が発生し、その費用は馬鹿になりません

裁判管轄は、当事者の合意によって定めることができますので、利用規約においては自社の本店がある地域の裁判所を第一審の裁判所と定めることが一般的です。

また、海外の利用者との裁判において海外の法律が適用されれば、海外の法律を前提に争う必要が生じ、見通しが難しくなる上、その検討にも大きな負担が生じます

そのため、準拠法を日本法に指定しておくことも、利用規約においては一般的に行われています

利用規約を契約の内容にするために、同意をどうとるべきか

利用規約と契約書は、当事者間の取り決めという点では共通しています。

しかし、契約書は1対1で個別に締結し、締結にあたっては双方の署名押印(最近では電子署名も多いですが)を行うのに対し利用規約は1対多の関係において規定されるもので、一律の内容を決めることが多い点で異なります

また、双方が署名押印した契約書は、契約書の記載内容が契約の内容であるとして紛争や裁判において強い効果を発揮します。

一方、利用規約の場合、当事者の署名押印を求めることはほとんどなく、どのような手続を踏めば当事者同士の契約内容になるかは不明確でした

この点については、令和4年の改正民法において、「定型約款」に関する規定が追加されました。

「定型約款」に該当する利用規約については、以下の条件を満たせば契約内容として合意したと評価されることを定めています。

民法548条の2第2項

①定型約款を契約の内容とする旨の合意があった場合、または

②定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ相手方に表示していた場合

①は、読んで字のごとく定型約款を契約の内容とする合意をしていますから、契約の内容になるのは当然といえます。

問題は、②のように「定型約款を契約内容とする旨をあらかじめ相手方に表示していた場合」とはどのようなケースかという点です。

この点、経済産業省がまとめている「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(令和4年4月)によれば、ウェブサービスの利用規約に対する同意取得について、以下の記載があります。

電子商取引及び情報財取引等に関する準則

ウェブサイトを通じた取引やウェブサイトの利用に関して契約が成立する場合に、サイト利用規約がその契約に組み入れられる(サイト利用規約の記載が当該契約の契約条件又はその一部となる)ためには、

①利用者がサイト利用規約の内容を事前に容易に確認できるように適切にサイト利用規約をウェブサイトに掲載して開示されていること、及び

②利用者が開示されているサイト利用規約に従い契約を締結することに同意していると認定できることが必要である。

また、ウェブサイトで同意をとる際の具体例として以下の例を挙げています。

ウェブサイトで定型取引を行う際に、事前に契約の内容とすることを目的として作成した利用規約を端末上に表示させるとともに、その末尾に「この利用規約を契約の内容とすることに同意する」との文章とチェックボックスを用意し、そのチェックボックスにチェックを入れなければ契約の申込みの手続に進めないようになっている場合

この準則からすれば、利用規約をパネルとして表示し、その下に「利用規約に同意する」という内容のチェックボックスをおき、チェックしなければ契約手続できないような場合であれば、契約の内容になると考えます

もっとも、これはあくまで経済産業省のガイドラインであって、法律のように裁判所の判断を拘束するものではないので、裁判において確実に認められるものでもありません

ただし、省庁が公式に出したガイドラインなので、一定の基準にして良いと考えます。

利用規約の作り方 ー丸パクリやツギハギはだめなのか?ー

利用規約は、その性質上数多くの企業がウェブ上に内容を公開しています。

そのため、類似のサービスを提供している企業がある場合、その内容を丸パクリしたり、複数の企業の利用規約からいいとこ取りをしてツギハギで作ったりしても良いのではないか、と考えることもあるかと思います。

この時に気になるのが「著作権」です。

しかし、著作権の保護対象は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」とされるところ、利用規約は創作性や個性が発揮されることは少ないため、著作権によって保護されない場合が多いです。

もっとも、全く著作権を認める余地がないわけではなく、表現や規定内容に個性がみられる場合は、著作物性が認められることがあります。

実際、東京地判平成26年7月30日では、利用規約の一部を著作物として認めています

また、著作権侵害にならなかったとしても、丸パクリやツギハギであることが発覚して、炎上してしまう可能性も否定できません

そもそも、類似のサービス内容であったとしても違いはあるでしょうから、利用規約の内容も自然と異なってくることになります。

実際のサービス内容と噛み合っていなければ、せっかく利用規約を作っても意味がありません。

先に説明したとおり、利用規約はサービスの防御にとって重要な役割を持つものですから、自社のサービス内容と噛み合った利用規約を作成すべきです。

もっとも、類似サービスの利用規約を参考にすることは駄目なことではなく、むしろとても有用です。

類似サービスの利用規約に記載された遵守事項や禁止事項は、類似サービスで起こり得る問題を想定したものであり、自社のサービスにとっても参考になります。

丸パクリは良くないですが、参考にすることは問題ないでしょう。

利用規約の作成・修正については、たくみ法律事務所の弁護士にご相談ください

利用規約は、事業およびサービスの円滑な運営、そして法的リスクの軽減に不可欠な重要な役割を担っています

インターネット上には数多くの利用規約の参考例が公開されており、それらを参考に独自で作成することも可能かと思われます。

しかしながら、個々のサービスの特性に合致した適切な条項になっていなかったり、利用者からの有効な同意を取得できる状況が整っていなかったりするなど、予期せぬ法的リスクを潜在させてしまう可能性があります。

事業者にとって重要な利用規約だからこそ、専門家によるリーガルチェックは大きな安心感につながります。

一度、たくみ法律事務所の弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

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