1. 改正の背景事情について

弁護士小林由佳

2025年4月1日(令和7年4月1日)に、改正貨物自動車運送事業法が施行されました。

同法は、物流の「2024年問題」や軽トラック運送業における事故増加といった社会的課題に対応するため、輸送業務の効率化と安全対策の強化を目的としています。

法改正の背景事情としては、2024年4月からドライバーの労働時間規制が強化され、物流停滞が懸念される2024年問題にあります。

物流停滞への対応策を講じなければ輸送力の不足も生じると懸念されているなか、物流の持続可能性を確保し社会インフラとしての物流機能を守るため、業界全体に効率化と安全強化を求める内容で、法改正が行われることとなりました。

今後、運送事業者・荷主だけではなく、消費者も含めた対応が求められることとなります。

2. 改正の内容について

(1)トラック事業者間の取引に関する改正内容

トラック画像
①運送契約時の書面交付義務

運送契約を締結する際、提供する役務の内容やその対価(附帯業務料、燃料サーチャージ等)を記載した書面の交付が義務付けられました(貨物自動車運送事業法24条2項)。

これにより、取引条件(運賃や、運送条件)の明確性が高まり、不当な取引やトラブルの防止が期待されます。

②実運送体制管理簿の作成・保存義務

元請事業者は、荷主から受託した運送業務を下請業者に委託する際には、原則として、実際の運送体制を記録した「実運送体制管理簿」を荷主ごとに整理して作成し、1年間保存することが義務付けられました(貨物自動車運送事業法24条の5)。

「実運送体制管理簿」には、以下の事項を記載する必要があります。

  • ア 真荷主から引き受けた貨物の運送について、実運送を行う貨物自動車運送事業者(=下請業者)の商号または名称
  • イ アの貨物自動車運送事業者が実運送を行う貨物の内容及び区間
  • ウ アの貨物自動車運送事業者の請負階層(実運送事業者が、元請けから何次請けにあたるか)
  • エ その他国土交通省令で定める事項

「実運送体制管理簿」の作成保存義務が定められたことにより、物流の透明性と責任の所在が明確化されます。

③下請取引の適正化

元請事業者に対し、下請事業者への発注について適正化を図ることが努力義務とされました(貨物自動車運送事業法24条1項)。

具体的には、

  • 利用する運送に要する費用の概算額を把握して、その概算額を考慮して、下請業者へ発注の申し込みをすること
  • 元請事業者にて、運送に要する費用の概算額を把握し、荷主が提示する運賃や料金がそれを下回るような場合には、荷主に対して交渉を申し出る

などの健全化措置を図ることが努力義務として課されることとなります。

④一定規模以上の下請発注を行う元請事業者の義務

前年度の利用運送量が100トン以上の事業者に対しては、運送利用管理規程の作成、運送利用管理者の選任と国土交通大臣への届出が義務付けられました(貨物自動車運送事業法24条の2)。

運送利用管理規程とは、運送事業者が他の事業者に貨物運送を委託する際の手続や判断基準、管理規程を明確に定める社内規定です。

また、運送利用管理者には、健全化措置の事業運営方針の決定、実施、当該方針の管理体制の整備及び実運送管理簿の作成監督業務などを行うことが求められます。

⑤荷主の特定事業者に対して課される義務

倉庫業者で貨物の保管料が70万トン以上などの一定規模以上の荷主や物流事業者は、特定異業者とされ、中長期計画の作成や定期報告等の義務が課されています。

(2)軽貨物運送事業者に対する改正内容

軽貨物運送事業者画像

EC市場の需要拡大により、宅配事業者の配達個数が増え、消費者への荷物の配達手段として軽貨物自動車を使用した配送需要が増加しています。

これに伴い、事業用の軽貨物自動車による重大事故が、平成28年から令和4年までの間で約50%増加しました。

これを受け、軽貨物運送事業の安全対策を強化するための規制が、定められることとなりました。

①貨物軽自動車安全管理者の選任・届出義務(貨物自動車運送事業法36条の2)

四輪以上の軽自動車で貨物運送を行う全ての事業者に、営業所ごとに、貨物軽自動車安全管理者を選任し、届出することが義務付けられました。

この「事業者」には、個人事業主も含まれます。

貨物軽自動車安全管理者として選任されるには、「選任の日から遡って2年以内に貨物軽自動車安全管理者講習を修了していること」が必要です。

また、貨物軽自動車安全管理者に選任されたあとも、2年ごとに貨物軽自動車安全管理者講習を受講することが義務付けられています。

②業務記録や事故記録の作成と保存

毎日の業務の開始場所、終了場所、走行距離の記録をした業務記録を作成し、1年間の保管義務が定められました(貨物自動車運送事業輸送安全規則8条)。

また、事故が発生した場合には、事故の発生状況、被害内容、事故の発生原因、今後の事故防止策について詳しく記録した事故記録も作成し、3年間の保管義務も定められました(貨物自動車運送事業輸送安全規則9条の2)。

③重大事故発生時の国土交通大臣への報告義務(貨物自動車運送事業法23条、自動車事故報告規則3条、4条)

死亡事故などの重大な事故が発生した場合、30日以内に管轄する運輸支局を通じて国土交通大臣へ報告することが義務付けられました。

加えて、2人以上の死者が生じた事故等、重大事故については、24時間以内にできるかぎり速やかに管轄の運輸支局等に速報しなければならないという義務も定められました。

④初任運転者等への指導・適正診断

以下のような特定の運転者に対し、事業者から特別の指導や、適性診断の受診が義務付けられます。

また、運転者の氏名、当該運転者に対する指導及び当該運転者への適性診断の受診状況等を記載した「貨物軽自動車運転者台帳」を作成し、営業所に据え置く必要もあります。

  • 初任運転者
  • 高齢運転者(65歳以上の者)
  • 事故惹起者(死亡又は重症事故を起こした者等)

3. まとめ

今回の法改正により運送事業者において対応が必要な事項は、これまでご紹介したとおり多岐にわたります。

特に運送契約や、運送利用管理規程の作成においては、専門家に相談のうえ作成されることをおすすめします。

ご自身の会社が、今回の法改正に対応するためどういった対応が必要か知りたい、など抽象的なご相談でもご対応可能ですので、気軽にお問い合わせください

  • 小林由佳弁護士
  • この記事を書いた弁護士

    小林 由佳(こばやし ゆか)
    たくみ法律事務所 福岡オフィス所属
    長崎県長崎市出身。日本大学法学部、九州大学法科大学院を経て司法試験に合格。熊本での司法修習を経て弁護士登録。注力分野は労務問題(不当解雇、未払い残業代請求、問題社員対応等)、不動産問題、広告法務、各種契約書チェック。

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