相次いだ起用見合わせ
旧ジャニーズ事務所の創業者であるジャニー喜多川氏の性加害問題は、国内外のメディアで大きく報道され、日本の芸能界の問題点が浮き彫りになりました。
児童に対する性加害という重大な人権侵害が大手芸能事務所の創業者により行われてきたことは極めて深刻な問題です。
この問題を受けて、各スポンサー企業が旧ジャニーズ事務所所属のタレントの起用や出演を相次いで見合わせたことも注目されました。
「タレントに罪はない」という意見もありましたが、長年にわたり人権侵害行為を行ってきた事務所と取引を続けることは自社のモラルを問われることになりかねないという判断があったと考えられます。
取引とコンプライアンス
近年、大企業を中心に、法令違反を犯した企業やコンプライアンス違反が疑われる企業との取引を避ける風潮が広がっています。
コンプライアンスに問題のある企業と取引をすることは、その企業の活動に資金を提供することを意味するからです。
企業規模が大きくなればなるほど取引先のコンプライアンスを厳しくチェックする傾向があります。
これは中小企業においても無関係な話ではありません。
自社の法令違反を放置していると、大口の取引先から取引を拒絶され、経営に大きな影響が及ぶ可能性があります。
中小の運送会社の経営者から、大口の荷主ほどドライバー労働時間の管理や貨物自動車運送事業法の順守を厳しくチェックするという話を聞いたことがあります。
コンプライアンスに問題のある運送会社に運搬を依頼して、その会社が重大な事故を起こせば、荷主が責任を問われるおそれがあるからだといいます。
運送会社では未払い残業代が高額になりやすく、労務管理が不十分な会社が複数の残業代請求を受けると会社の存続を揺るがす事態になりかねないことから、そのような会社との取引を避ける意図もあると思われます。
公表制度
特商法や食品衛生法などの法律では、法律に違反した企業名を行政庁に公表させる制度が定められています。
たとえば特商法(特定商取引に関する法律)では、法務大臣が業務停止命令を行った場合にその旨を公表しなければならないことが定められています(同法第8条第2項等)。
これは企業名を公表することにより取引の安全を確保する趣旨の制度です。
企業にとっては罰金などの処分よりも企業名を公表されて取引先に取引を停止されることの方がずっとダメージが大きいので、行政が公表制度を活用することは当然のことでしょう。
中小企業もコンプライアンスの強化を
これまで一部の中小企業では、多少の法令違反があってもやむを得ないという一種の甘えがあったかもしれません。
しかし昨今では、企業規模を問わずコンプライアンスの強化が不可欠になっています。
安定した経営のために、顧問弁護士など外部の専門家を活用して労務管理や契約書の管理を徹底することをおすすめします。