東京地裁は、2022年7月13日、東京電力福島第1原発事故を巡り津波対策を怠って会社に損害を与えたとして、勝俣恒久元会長ら東電旧経営陣4人に対し、計13兆3210億円を東電に支払うよう命じました。
原発事故で旧経営陣の民事上の責任を認めた司法判断は初めてのことであり、また、賠償額は国内の民事訴訟における最高額とされているため、大きな話題になりました。
なお、本判決は600ページにも及び、裁判長によれば作成に7か月も要したそうです。
今回は株式会社の取締役が株式会社に対して負う損害賠償責任(会社法423条1項)について解説します。
役員の株式会社に対する損害賠償責任
東電原発訴訟において旧経営陣が負った責任は、役員の株式会社に対する損害賠償責任(会社法423条1項)です。
会社法に規定されていますので、会社の規模に関わらず、株式会社の役員であれば誰もが負う可能性のある責任です。
簡単に述べると、役員が会社に対する任務を怠ったこと(任務懈怠)による損害を賠償する責任です。
法令に違反する行為があった場合や、業務執行上の判断を誤った場合、他の役員に対する監督を怠った場合等に任務懈怠があるとされています。
経営判断原則
もっとも、任務懈怠を広く認めてしまうと、会社の取締役は、任務懈怠責任を負うことをおそれ、思い切った業務執行ができなくなります。
そこで、取締役が業務執行について萎縮しないように、経営判断原則というルールが適用されることがあります。
経営判断原則とは、業務執行を行った時点において、事実の認識や意思決定の過程に不注意がなければ、広い裁量を認めるというものです。
会社法上定められているわけではありませんが、経営判断原則を認めた裁判例は多く存在しており、実務上のルールとして確立されています。
そして、賠償額は、その役員の行為(不作為)によって会社が被った損害額です。
今回の東電訴訟では、この賠償額が約13兆円もの額に及んだということになります。
役員の責任
なお、会社法上は、以下のとおり、役員の責任を免除し、限定する旨の規定が存在します。
責任の一部免除(会社法425条)
役員が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、一定の要件のもとで賠償額の一部を免除することができる制度です。
取締役等による免除に関する定款の定め(会社法426条)
一定の要件のもとで、一定の額を限度として役員の責任を免除することができる制度です。
責任限定契約(会社法427条)
業務執行取締役等以外の取締役について、定款の定めに基づいて会社と当該取締役が契約を締結することにより、責任の限度額をあらかじめ定めることができる制度です。
最後に
今回は役員の会社に対する責任に限定しましたが、役員は第三者にも責任を負います(会社法429条)。
今回の内容についてご不明な点や、少しでもご不安な点があれば、お早めにご相談ください。