「勤務態度や成績が悪い」
「期待していた成果を上げてくれない」
「職場環境を乱す」
このような社員に対しては、指導を行い、改善を促すこととなりますが、それでも改善が見られず、雇用契約を維持することが難しいとなった場合、普通解雇や懲戒解雇の手段も検討されることになります。
しかしながら、よく知られているとおり、普通解雇や懲戒解雇はその有効性について高いハードルが課せられており、のちのち従業員から争われて解雇が無効となるリスクが内在しているため、解雇はあくまで最後の手段として検討すべきです。
リスクの大きい解雇という手段を避けつつ雇用契約を終了させるための企業の選択肢としては、退職勧奨というものがあります。
退職勧奨とは
退職勧奨とは、企業から従業員に対し、自発的に退職することを促す行為です。
企業から従業員へ退職勧奨を行い、従業員が退職勧奨に応じる場合は、退職合意書を作成したり、従業員が退職届を提出することになります。
退職勧奨すべてが違法だと勘違いされている企業担当者の方もおられますが、この認識は誤りで、退職勧奨を行うこと自体は必ずしも違法とはなりません。
しかし、もし退職勧奨が違法と判断されると、原則として、退職勧奨に応じてなされた退職合意や退職の意思表示が無効になるとともに、企業が従業員に生じた損害を賠償する責任を負います。
退職勧奨がどのような場合に違法となるかについては、「下関商業高校事件」と呼ばれる昭和55年7月10日の最高裁判例で基準が明らかにされています。
下関商業高校事件の要旨
要旨①
退職勧奨される者が自由に企業からの退職勧奨に応じて退職するか否かを決める限りは、企業から行う退職勧奨はなんら違法ではないことが確認されています。
要旨②
従業員が退職に応じるか否かはあくまでの従業員の意思による選択であって、このような自由な意思決定を侵害するような退職勧奨のやり方は、それ自体が違法になるとされています。
自由な意思決定を侵害するような退職勧奨とは具体的にどのようなものかが問題になります。
要旨③
回数や期間の限界は事案によって異なる
今回問題となった事例では、退職勧奨の対象となった従業員が、初回の退職勧奨の段階から、一貫して退職に応じない旨を表明していたにもかかわらず、長期に渡って退職勧奨が繰り返されており、退職勧奨として許される限度を超え、違法であると判断されました。
通常、一度の退職勧奨で退職合意まで至るケースは少なく、数度の退職勧奨や交渉を経て退職合意に至るのが一般的です。
上記の裁判例では、退職勧奨の回数および期間についての限界は、退職を求める事情等の説明および優遇措置等の退職条件の交渉などの経過によって千差万別であり、一概には言い難いとされています。
退職勧奨により退職合意を目指す際には、話し合いを行う頻度や1回あたりの時間、勧奨の言動などに配慮し、違法とならないように最大限の注意を払う必要があるのです。
最後に
問題のある社員にどうしたら円満に退職してもらえるか。
これは業種や規模の大小を問わずあらゆる企業の経営者が抱える課題で、事実、弁護士へのご相談が多い問題でもあります。
退職勧奨はあくまで従業員の任意の意思により退職してもらう方法ですので、社会的な相当性を逸脱した態様での半強制的な、あるいは執拗な退職勧奨は違法となります。
問題社員に対し、違法とならない範囲で退職勧奨を行うためには、個別の事情を踏まえた微妙な判断が要求されます。
当事務所では使用者側に特化して多くの労務問題を扱っておりますので、問題社員でお困りの際にはお気軽にご相談ください。