労働時間の把握は、割増賃金の支払いや労働者の健康管理のために必要不可欠なものです。
しかし、労働時間の管理を自己申告に頼っている会社は少なくありません。
今回は労働時間の適正な管理方法について解説いたします。
労働時間管理の必要性
そもそも、労働時間の適正な管理を怠ると会社にどのような不利益があるのでしょうか?
働き方改革の流れの中で労働安全衛生法が改正され、2019年4月より「労働時間の客観的な把握」が義務化されました。(第66条の8の3 )。
しかし、労基法や労働安全衛生法には、労働時間の把握そのものに関する罰則は定められていません(ただし、時間外労働時間の上限に関する規定に違反すると半年以内の懲役もしくは30万円以下の罰金が科せられます。)
労働時間管理を怠るリスクは、労働時間を巡って従業員側と紛争に発展したときに会社が不利な立場に立たされる点にあります。
従業員から未払い分の残業代を請求されたり、長時間労働により過労死したとして遺族から損害賠償を請求されるときには、相手方や裁判所からタイムカードなど労働時間に関する証拠の提出を求められる のが一般的です。
このときに資料を提出することができなければ労働者側の主張に対する有効な反論ができません。
すると、労働者が作成したメモなどを元に労働時間が認定される可能性が高くなります(最近では位置情報を利用した「残業証拠レコーダー」と呼ばれるアプリもあります。)
また、裁判所や労基署に対して、基本的な労務管理すら行っていないずさんな会社であるという印象を与えることになるでしょう。
労働時間の適正な把握
では、具体的にどのような方法で労働時間を管理すべきなのでしょうか?
厚生労働省の『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』(2017年1月20日策定)によると、労働時間の管理は原則として以下の方法により行われるべきであるとされています。
(ア)使用者が、自ら現認することにより確認すること
(イ)タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として、適正に記録すること
(ア)の「自ら現認する」とは、使用者または労働時間管理を行う者が直接始業時刻や終業時刻を確認することをいいますが、これは現実的に困難な場合が多いでしょう。
そこで、(イ)の「客観的な記録」を取る方法を検討する必要があります。
具体的な管理方法
客観的な記録方法としてまず思いつくのは、タイムカードの打刻による管理方法でしょう。
すでに述べたとおり、厚生労働省のガイドラインでも、タイムカードによる管理が客観的な管理方法の1つとされています。
最近は「ジョブカン」「マネーフォワードクラウド勤怠」といったクラウド型の勤怠管理システムも広く利用されています。
これらのシステムはパソコン、ICカードリーダー、指静脈認証機器、顔認証打刻機器など様々な打刻方法に対応しており、ペーパーレスで勤務時間を管理・集計することができます。
残業時間が一定時間を超えた場合に本人や管理者にアラートを出す機能もあります。
記録した勤務時間を給与計算システムと連携させて給与計算を自動で行ったり、有休申請、残業申請、シフト管理、経費精算といった人事・総務の業務をワンストップで処理することも可能です。
いずれにしても、労働者の自主的な申告に委ねる自己申告制は、不適正な運用の原因となりやすいので避けるべきです。
適正な労働時間管理のための体制整備
では、タイムカードや打刻システムを導入すれば適切な労働時間管理ができるかというと、そうではありません。
打刻後に残業をしたり、逆におしゃべりばかりして無駄な時間を過ごした分が残業時間として記録されてしまうことがあるからです。
タイムカードの場合は本人以外の者が不正打刻を行う可能性もあります。
そこで打刻にのみ頼るのではなく、管理者が実際の労働時間や業務内容をチェックして打刻時間と照らし合わせたり、残業を許可制にするなどして、労働時間の実態を適正に把握する必要があります。
時間外労働の管理は形骸化しがちです。
せっかく残業を許可制にしても、管理者が申請された内容をよく確認せずに全て承認しているようなケースはよく起こります。
現場と事務部門でダブルチェックの仕組みにすることも重要です。
現場任せにするのではなく、最低でも月ごとの時間外労働は経営者がチェックするようにしましょう。
最後に
労働時間の把握は適正な労務管理の第一歩です。
最近は労務管理を効率化するためのクラウドツールも使いやすくなっていますので、システムの導入を含めて検討することをお勧めします。
弊所では労務トラブルが起こったときの対応だけでなく、紛争予防、社内の体制整備、労務管理システムの導入に関するご相談にも対応可能です。
どうぞお気軽にご相談ください。