弁護士江藤豊史

今年10月、最高裁判所で「同一労働同一賃金」に関する重要判決が立て続けに出されました。

大阪医科薬科大学事件」「メトロコマース事件」「日本郵便事件(東京・大阪・佐賀)」という5つの事件です。

このうち「大阪医科薬科大学事件」「メトロコマース事件」では高裁で労働者側にかなり有利な判断が出されなされていましたが、最高裁で会社側が逆転しました。

その一方で、「日本郵便事件」では会社に厳しい判断がなされました。

今回の最高裁判決は、今後の非正規社員の待遇について実務的にも大きな影響を及ぼすと考えられます。

今回のニュースレターでは、同一労働同一賃金について概要をご説明したうえで、10月に出された最高裁判例のうち「大阪医科薬科大学事件」と「メトロコマース事件」についてポイントを解説いたします。

「同一労働同一賃金」とは

均衡待遇と均等待遇

今回の裁判例で問題になっている「同一労働同一賃金」は、同じ企業で働く正社員と非正規社員(有期雇用労働者、パートタイム労働者等)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。

働き方改革関連法の柱の一つとして「パートタイム・有期雇用労働法」が改正されたことにより、大企業では今年4月から同一労働同一賃金が既に義務化され、中小企業では来年の4月1日から導入されます。

改正後のパートタイム・有期雇用労働法では、正社員と非正規社員の待遇に「不合理と認められる相違」を設けることや、非正規社員であることを理由として正社員との間で「差別的取扱い」をすることを禁止しています。

前者を「均衡待遇」、後者を「均等待遇」と呼びます。

過去の事案と今回の判決の意義

近年、同一労働同一賃金について最高裁が判断を下した有名な事案として、このニュースレターでも過去にご紹介した「ハマキョウレックス事件」と「長澤運輸事件」という2つの事案があります。

「ハマキョウレックス事件」と「長澤運輸事件」では、運送業における皆勤手当などの各種手当の支給について正社員と非正規社員の間で格差があることが争われました。

最高裁は、各手当の支給目的や性質を考慮し、無事故手当、皆勤手当など差異を設けることに合理的な理由がない手当を支給しないことは違法であるとした一方で、住宅手当などについて不合理でないと判断しました。

他方で、今回の「大阪医科薬科大学事件」と「メトロコマース事件」では賞与や退職金といった賃金のいわば「根幹部分」が最高裁で争われました。

なお、今回の判決は働き方改革関連法の成立に伴い削除された旧労働契約法20条が問題となった事案ですが、最高裁の判断はパートタイム・有期雇用労働法にも及ぶと考えられています。

大阪薬科大学事件

この事件は、被告会社と有期労働契約を締結してアルバイト職員として勤務していた原告が、正職員に支給されている賞与が非正規職員に支給されないことは同一労働同一賃金に反するなどとして損害賠償を請求した事件です。

高裁の判断

原審の大阪高裁では、被告会社における賞与は、正職員としてその算定期間に在籍、就労していたことの対価としての性質を有するから、同期間に在籍し、就労していたフルタイムのアルバイト職員に対し、賞与を全く支給しないことは不合理であるとしました。

そして、契約職員には正職員の約80%の賞与が支給されていることなどに照らし、アルバイト職員にも正規社員の支給基準の60%は支払わなければならないとしました。

最高裁の判断

これに対して最高裁は、被告における賞与は正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から支給することとされたものであり、原告の業務が正規社員と比べて軽易であったことなどを考慮すると、アルバイト職員である原告に対して賞与を支給しないという労働条件の相違は不合理とは認められないと判断しました。

メトロコマース事件

この事件は、被告会社と有期労働契約を締結して定年まで10年前後にわたって東京メトロの駅構内の売店における販売業務に従事していた原告らが、正職員に支給されている退職金が非正規職員に支給されないことは同一労働同一賃金に反するとして損害賠償を請求した事件です。

原告らは1年間の契約期間を更新しながら、被告会社で働き続けました。

高裁の判断

原審の東京高裁では、退職金には賃金の後払い、功労報償等の様々な性格があるところ、非正規職員にも少なくとも長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金、具体的には正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額すら一切支給しないことは不合理であると判断しました。

最高裁の判断

これに対して最高裁は、被告における退職金は正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものであったこと、正社員は欠勤した販売員の業務を行う代務業務やエリアマネージャー業務に従事することがあったことや、業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の危険性があり、正当な理由なくこれを拒否することができなかったことなどを考慮すると、非正規社員である原告らに対して退職金を支給しないという労働条件の相違は不合理とは認められないと判断しました。

最後に

このように、最高裁は賞与、退職金のいずれについても非正規社員に対する不支給は不合理ではないと判断しました。

しかし、今回の最高裁判例はあくまで個別の事案に対する判断という形でなされたものであり、あらゆる場面で賞与や退職金の不支給が不合理でないとされるというお墨付きが出されたわけではありません

中小企業の経営者の皆様からは「同一労働同一賃金といっても、具体的に何をすればよいのか?」というお声が寄せられています。

そこで、今回の判決を受けて今後経営者や人事担当者が注意すべきポイントについて簡単に解説いたします。

契約延長

試用期間

第一に、非正規社員との雇用契約をむやみに延長して長期間雇用することは避けるべきです。

非正規社員を長期に雇用すればするほど、長期雇用を前提とした正社員との差異がなくなり、待遇格差の合理性が認められづらくなるためです。

長期にわたって雇用したい非正規社員には無期契約への転換を促して別の雇用形態を用意したり、逆に一定の期間(たとえば3年)で区切ることにより、正社員との差異を明確にすべきです。

職務内容の差異

第二に、正社員と非正規社員の間には職務の内容、責任の程度、配置転換の有無などの点で差異を設けておき、両者が実質的に同じだと言われないようにしておくことが必要です。

具体的には、就業規則や雇用契約書上、上記の点の差異を明確に規定しておくことが重要です。

また、両者の違いを会社の経営者や人事担当がしっかり理解し、仮に労働者から両者の待遇の違いの説明を求められたとしても、しっかりと説明ができる体制を整備しておくことも大事です。

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