ドコモ・マーケティングの調査によれば、福岡市における在宅率の増加は2020年4月18日時点で、1割弱にとどまったとのことです。
しかし、弊所の顧問先様からの話などからは、テレワーク勤務は着実に増加していると思われます。
新型コロナウイルスによる脅威は長期化する様相を見せており、今後も接触を回避する社内での施策が継続的に求められています。
テレワークに関する相談
前回の「事業場外みなし労働時間制を適用できる?」では、テレワーク導入に際してどういった労働時間制を採用できるのかについて説明しました。
実際にテレワークを導入するに際して、
- 「就業規則の変更が必要なのか?」
- 「テレワーク規程を準備しなければいけないのか?」
- 「とりあえず実行しているが、法的に問題ないのか不安だ」
といったご相談を多くいただいております。
そこで、今回はテレワーク導入に際しての就業規則の変更について取り上げたいと思います。
就業規則の変更が必要かどうか
労働時間制度に変更があるか
就業規則の変更が必要かどうか判断するにあたって、まず、労働時間制度に変更があるかを確認します。
一言でテレワークといっても、その労働時間管理には様々な形態があります。
①通常勤務の場合と同様の労働時間管理を行う場合
例:9~18時(休憩12~13時)をテレワークでも同様に行う場合
②通常勤務の場合と異なり、事業場外みなし労働時間制を採用する場合
例:通常は、9~18時(休憩12~13時)だが、テレワークの場合は、実際に勤務時間にかかわらず8時間働いたこととする労働時間制を採用する場合
等です。
①の場合は、基本的には就業規則の変更は不要です。
自宅で働くことについては当事者間で同意を取るか、配置転換等の業務命令などを適用することが考えられます。
②の場合において、テレワーク時に利用する労働時間制度が既存の就業規則で定められている場合には就業規則の変更は不要です。
ただ、②の場合において、テレワーク時に利用する労働時間制度が既存の就業規則にない場合には就業規則の変更が必要になります。
労働時間制度以外の勤務(労働)条件の変更がないか
次に、労働時間制度以外の勤務(労働)条件の変更がないかを確認します。
勤務条件に変更がある場合は、就業規則の変更が必要になります。
たとえば、給与、休日、休暇について制度を変更する場合や、通常勤務では生じない費用負担が従業員に発生する場合などです。
以上でご説明したのは基本的な考え方ですが、その他状況に応じて就業規則の変更が必要になるケースもあります。
ご不明な点はご相談ください。
就業規則を変更するには
就業規則は全て自由に変更できるわけではありません。
労働条件が不利益に変更される場合には、労働者からの個別の同意か、変更内容に合理性が必要になりますので、この点にもご注意ください。
緊急事態宣言が出され7割の出勤抑制が求められる現状において、以下で紹介するようなモデル就業規則等を導入する場合は、合理性が認められるケースが多いと思われます。
しかし、モデル就業規則以上に労働者に不利益を課す内容となる場合は変更の合理性を判断する必要があります。
個々の労働者との合意によることも可能
ちなみに、就業規則によらず個々の労働者との合意によって労働条件を変更することは可能です。
もっとも、労働者にとって不利益な合意となる場合には、労働者の自由意思に基づいて合意したかどうかを厳格に判断されるので、具体的な説明などを踏まえた手続が求められます。
テレワーク勤務規程はどのように作成すればよい?
就業規則の変更?勤務規程の追加?
就業規則の変更が必要であるとされる場合においては、どのような規定を導入すべきでしょうか。
就業規則の変更が不要であるとされたとしても、働き方が変わる以上、実際には規定の作成が必要になるケースは多いので、同様の問題が生じます。
実際に導入を検討すれば、誰をテレワーク対象者にするのか、報告連絡手段を限定するのか、セキュリティ対策はどのようにするのか等が問題になるためです。
単に就業規則の内容を変更するというよりは、新たにテレワーク勤務規程を導入する方が良い場面が多いと思われます(この場合も就業規則変更の手続が必要です。)。
では、具体的にはどのような規定を準備すべきでしょうか。
モデル就業規則
この点については、厚生労働省が「テレワーク総合ポータルサイト」を公表しているので、こちらが参考になります。
その中には、モデル就業規則もあります。
モデル就業規則では、
- 在宅(テレワーク)勤務の対象者
- テレワーク勤務の服務規律
- テレワーク勤務の労働時間
- テレワーク勤務時の報告、連絡体制
- テレワーク勤務の給与、費用負担
などのテレワーク勤務に関する基本的な規定が定められており、同規則を参考に修正していく方法が考えられます。
テレワーク勤務対象者について
テレワーク勤務の対象者について、モデル就業規則(第3条)では、
(1)在宅勤務を希望する者 (2)自宅の執務環境、セキュリティ環境、家族の理解のいずれも適正と認められる者
という条件を定めています。
もっとも、正社員にはテレワーク勤務を認めて、非正規社員には認めないという運用になっていないかには注意が必要です(いわゆる同一労働同一賃金)。
そのため、本人の希望や、執務環境などではなく、あくまで業務内容によって判断していることを示す意味でも、テレワークにおける対象業務で限定するために下記のような条件を追加する方法が考えられます。
(3)以下の業務を行う者 ①・・・業務 ②・・・業務
テレワーク勤務を縮小する際の注意点
モデル就業規則にはテレワーク勤務の期間の限定等はありませんが、実態としては、緊急事態宣言が解除された場合に、テレワーク勤務を縮小したいという考え方もあると思います。
そこで、期間の限定等をあらかじめ定めておくことも考えておくべきでしょう。
たとえば、テレワーク勤務については、1か月単位で行うとするなどです。
なお、モデル就業規則でも、3条3項で「会社は、業務上その他の事由により、前項による在宅勤務の許可を取り消すことがある。」と定めていますが、テレワーク勤務を許可する時点において、「新型コロナウイルスの蔓延による緊急事態宣言が解除された場合には、許可を取り消す」旨伝えておくことがトラブル回避のためには必要になると思われます。
労働時間制度
モデル就業規則においては、テレワーク勤務時の労働時間制度についての条項(第5条)で、
「在宅勤務時の労働時間については、就業規則第〇条の定めるところによる。」
とされています。
これは、テレワーク勤務時に適用される労働時間制度が、就業規則において定められていることを前提にするものです。
既存の就業規則に定められていない場合で、たとえば、事業場外みなし労働時間制やフレックスタイム制度を利用する際には、就業規則自体を変更するか、テレワーク勤務規程において、労働時間制を規定するかを検討する必要があります。
また、業務報告の規定も定められていますが、これは単なる業務指示や連絡体制についてのルールを決めるだけではなく、テレワーク勤務においても、使用者に労働時間の把握義務があるために求められているものでもあります。
管理監督者であっても、事業場外みなし労働時間制を採用したとしても同様ですので、ご注意ください。
最後に
以上のとおり、モデル就業規則をベースにしても、個々の会社において修正が必要となる箇所は多くあります。
ご不明な点は遠慮なくご相談ください。