2019年4月に働き方改革関連法案が施行され、2020年4月からは中小企業も時間外労働の上限規制の対象となります。

皆さまの会社では、働き方改革関連法案が施行されてから長時間労働は是正されているでしょうか

長時間労働のリスク

時間

弁護士は、残業時間の問題について、コンプライアンスリスクの観点から見解を述べることが多いです。

しかし企業にとって、長時間労働は単なるコンプライアンスリスクのみならず、採用が困難となるというリスクも孕んでいます。

今後雇用拡大が予想される外国人も若年層も長時間労働を敬遠する傾向にあることは感じられているところかと思われます。

また、人材難が叫ばれ「リテンション(優秀な人材を確保するための手法)」の重要性が高まるなか、早期退職や、人材育成ができないことのリスクも同時に高まります。

そして、現に働き方改革関連法案が施行され、違反が罰金の対象となっても、やはりまだ残業時間は減らない。

なぜでしょうか??

残業時間を短くするため特効薬は??

これまでの施策

これまでの残業時間削減の施策としては、

  • ノー残業デー
  • 残業の届け出・事前承認制
  • 残業が多い場合の管理職に対するペナルティ

などが典型例でした。

しかし、「ノー残業デーを導入をしても実際には残業をしていたり、自宅に持ち帰ってしまっている」、「残業の事前承認制を導入したらサービス残業が増えてしまった」なんてこともよくあります。

そこで…

「こんな施策では全く効果が出ない。もっと画期的な残業時間施策はこれだ!」

という説明ができればよいのですが、残念ながら、そのような特効薬はありません。

なぜ組織は変われない?

「皆残業時間は減らしたい」

「生産性を高めて早く帰りたい」

と思っているのに、なぜ残業時間対策はうまくいかないのでしょうか。

なぜ組織は変われないのでしょうか?

「裏の目標」は何か?

ハーバード大学院教授のロバート・キーガン氏は著書『なぜ人と組織は変われないのか-ハーバード流自己変革の理論と実践-』2019年。英治出版株式会社)の中で、参考になる指摘をしています。

改善目標を達成できないのは、改善目標の達成を妨げる行動の背中を押している「裏の目標」があるからだというのです。

少しわかりにくいので具体例を挙げて説明します。

たとえば、とある残業時間が多い従業員Aが残業時間を減らそうという目標設定をしているにもかかわらず、なかなか減らないという実態があるとします。

「残業時間を減らしたい」

という改善目標があるとして、

それを阻害しているのは

「優秀であるから業務が集中し、業務量が多い」

というものだとします。

しかし、ヒアリングなどを行いよく調査してみると、

①残業代がないと生活費が賄えない

②部下に任せれば業務量は減るが、自分の仕事を取られて自分の居場所がなくなる

といった、阻害行動を後押しする「裏の目標」があるというのです。

この「裏の目標」をあぶりだすことが人や組織変革のために重要であるとキーガン氏は述べます。

経営課題として取り組む

このコラムでお伝えしたいのは、「目標を達成できないのは、従業員が皆、会社に対するロイヤルティが低く、指示に従わないからだ」などといったことではけしてありません。

キーガン氏がいう「裏の目標」は自身でも気づいていないケースが多く、残業時間の問題一つとっても、その原因を突き止めるには簡単ではないということです。

さまざまな残業時間抑制の手法を安易に試すべきではありません(これをやると「会社としての施策は毎回失敗するという」白けたムードが生まれるからです。)

そうではなく、各会社に根差す、残業時間が減らない理由を突き止めて、その理由に適合する残業時間抑制の施策を、会社全体の課題として取り組んでいく必要があります。

残業時間の管理から始めましょう

まずは残業時間を正確に把握することが重要です。

タイムカードのチェックだけではありません。

本来であれば残業時間となる持ち帰り残業やサービス残業だけでなく、PCのログといった客観的資料や、アンケート、ヒアリングなどを会社として把握することが、リスク管理と残業時間抑制のための第一歩となります。

企業の生き残りのために

弁護士小林

今回の働き方改革において、基本的にすべての従業員に、労働時間の状況の把握が義務付けられています。

働き方改革、とりわけ残業時間の問題は、今後企業が生き残るための経営の重要課題と認識したうえで、取り組む必要があります。

「労基署から指摘があるから」、「顧問弁護士から指摘があったから」というような理由ではなく、トップの強いコミットメントのなかで自社の経営理念を実現していくために必要な課題です。

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