1. はじめに

近年、転職市場の活性化により、悪意ある問題社員による他の従業員・顧客の引き抜きによって、会社が損害を被るケースが増えています。
特に、重要なポストに就く従業員が、複数名の従業員を同時に誘って退職させたり、主要取引先である顧客を奪取したりする場合、会社の売上低下・人員体制の崩壊・信用毀損、等に直結し、会社の業務に重大な支障が生じることがあります。
もっとも、「引き抜き=直ちに違法」というわけではなく、適法な転職勧誘の範囲にとどまる場合もあります。
他方で、会社の利益を著しく害する態様で行われた場合等には、法的責任を追求できる場合もあります。
本記事では、このような問題社員に対して、会社がどのように対応すべきか、解説していきます。
2. 既に引き抜きがなされてしまった場合の対応は?
2-1. 損害賠償請求等の検討

既に引き抜きがなされてしまった場合、会社としては、引き抜きによって生じた損害を回復するために損害賠償請求を検討します。
過去の裁判例では、単なる転職勧誘にとどまらず、引き抜き行為が社会的相当性を逸脱し、会社の利益を著しく害する場合には、損害賠償請求の対象となる旨判断したものがあります(例:宮崎地都城支判令和3年4月16日〔スタッフメイト南九州・アンドワーク事件等〕、東京地判平成8年12月27日〔コンピューターサービス事件〕)。
もっとも、損害賠償が認められるか否かの判断においては、引き抜きの規模・方法・影響、勧誘の方法・態様(秘密性、計画性、虚偽説明の有無等)、背信性・不公正性などを総合考慮するため、事案に即した法的評価が不可欠です。
2-2. 証拠保全と損害の立証
仮に損害賠償請求が可能でも、会社側で「どのような損害が」「いくら」生じたかの立証が必要です。
たとえば
- 引き抜かれた従業員が在籍していれば得られた利益
- 採用・教育コスト
- 顧客奪取があれば当該顧客から得られた利益
などが考えられますが、実務上、損害額の立証は難しいことも珍しくありません。
よって、初動での証拠保全が極めて重要です。
3. 問題社員による引き抜きを予防・再発防止するためには?

既に引き抜きが起こってしまった場合だけでなく、問題が顕在化していない段階でも、引き抜きが生じないように予防したり、再発防止策を検討したりしておくことが重要です。
損害賠償請求が容易ではないことを考えると、むしろこちらに力を入れるべきとも言えます。
どのような予防・再発防止策を取るべきか(もしくは取ることが可能か)は、各会社の実情によって様々かとは思いますが、たとえば次のような対策が考えられます。
-
就業規則・誓約書によるルール化:
在職中の背信的行為の禁止、機密情報・顧客情報の持出し禁止、懲戒事由の明確化 -
秘密保持契約(NDA)の整備:
対象情報の特定、返還義務、利用目的の限定 -
競業避止・引き抜き禁止(非勧誘)条項の設計:
退職後の制約は有効性が争点となりやすいため、対象・期間・範囲・必要性を踏まえた合理的設計が必要 -
退職時手続の整備:
端末・資料の回収、アカウント停止、退職者からの念書取得、引継ぎの形式知化 -
教育・周知の徹底:
管理職研修、情報管理ルールの定期周知、違反時の取扱いの明確化
これらの予防策が講じられていれば、万一引き抜きが発生した際にも、契約違反(債務不履行)に基づく賠償請求などの防衛手段が機能しやすくなります。
他方、契約書や合意書で定めておけば従業員の行動をすべて制約できる、というわけでありません。
あくまで、「従業員の職業選択や営業の自由を不当に制限することが無い範囲で」契約書や合意書を作成することが重要です。
4. 弁護士を入れるメリット

引き抜き問題は、①事実調査・証拠保全、②損害算定、③交渉、④再発防止策の検討など、多岐にわたる対応が必要になります。
さらに、これらの対応をどのような方針で進めるかを決めるうえでは、専門的な法的知識も必要となります。
また、「どこまでが適法な転職勧誘で、どこからが違法な引き抜きとなるのか」「社内の証拠がどの程度そろっているのか」「今すぐ止めるべき被害があるのか」などの初期判断が、その後の結果を大きく左右します。引き抜きが疑われる段階で早めに相談することも、損害の拡大防止のために非常に重要です。
弊所では、引き抜きの問題について、眼の前の相手方との交渉のみならず、将来の訴訟も見据えた証拠保全・主張の整理、紛争解決に向けた示談書の作成、法的に有効な再発防止策の整備まで、継続的かつ一貫した対応をさせていただくことも可能です。
このような問題社員対応や労務問題に強い弁護士も多数在籍しておりますので、お困りの際は、お気軽にご連絡ください。
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