弁護士小林

社長!お金を貸してください!

従業員から突然そう言われたら、あなたはどうしますか?

「普段会社のために頑張ってくれている従業員なら、まとまったお金を貸してあげてもいい」と考える経営者の方もいらっしゃるかもしれません。

ところがお金を貸したとたん会社に出てこなくなり、連絡が一切取れなくなるという可能性もあります。

会社が従業員に対して貸付を行う「従業員貸付制度」は主に大企業で活用され、最近は中小企業でも採り入れる企業が増えています。

今回は従業員貸付制度の導入と貸付金の回収のポイントについて解説いたします。

従業員貸付制度のメリット

従業員貸付制度を導入する会社側のメリットとして、

  1. 福利厚生の一環として従業員の満足度を向上させることができる
  2. 従業員採用などの場面で会社の魅力としてアピールできる
  3. 従業員が複数の金融機関から借り入れをして多重債務状態に陥り、給料を差押えられるような事態を防ぐことができる

などがあります。

従業員にとっては、金融機関から融資を受ける場合と比べて低金利でお金を借りられる点に利点があります。

労使協定の締結

賃金貸付制度を導入する際には、「どのようにして貸し倒れを防ぐか」がポイントとなります。

「給料から天引きすればいいのでは?」ともお考えかもしれませんが、所得税、住民税、社会保険料など例外を除いて、会社が勝手に従業員の給料から天引きを行うことは許されません

天引きを行うためには、過半数労働者で組織する労働組合または労働者の過半数代表者との労使協定による合意が必要となります(労働基準法第24条1項)。

この労使協定は、36協定のように労働基準監督署に届け出る必要まではありません。

制度設計

実際に賃金から控除を行うためには、貸付けのルールを定めて規程にまとめる必要があります。

このような規程を「社内貸付規程」などと呼びます。

社内貸付規程は就業規則の一部となりますので、労働者の意見聴取など労働基準法所定の手続を経る必要があります。

社内貸付規程に定めるべき主な項目は次のとおりです。

目的

「従業員の私生活の安定を図り、これによって社業の安定的な発展に寄与することを目的とする」といった目的規定が置かれることがあります。

金利

無利息でまとまったお金を渡してしまうと贈与税の対象となってしまうため、利息制限法及び出資法の範囲内で金利を設定する必要があります。

従業員が消費者金融などから借り入れをして多重債務に陥ることを防ぐという目的を考えれば、当然、消費者金融などで借り入れを行った場合よりも安い金利を設定するべきでしょう。

限度額

回収可能性の観点から、従業員が現実的に返済可能な限度額を設けておくべきです。

一律とする、あるいは賃金や勤続年数によって上限を設定するのがよいでしょう。

利用用途

貸付の際に理由を問わないという制度にすることも可能ですが、貸付金をギャンブルや贅沢品の購入に使用されることは従業員貸付制度の趣旨に反します。

そこで、利用用途を申告させて条件に該当すると判断された場合にのみ貸付を行うことができます。

具体的には、慶事・弔辞にかかる費用、疾病や傷病による治療・入院費用、介護費用、災害に被災したことによる費用、教育費用(子の入学費等)などに限定することが考えられます。

返済方法

毎月の返済額や返済回数などを定めます。従業員の賃金や資力との関係で現実的な返済方法の設定が必要となります。

労使協定を締結していれば賃金から控除することも可能ですが、従業員の生活を保護する観点から、一度の給与の支払いにつき天引きできる額には限度があるため注意が必要です。

具体的には、賃金の4分の3(その額が33万円を超える場合は33万円)に相当する部分については控除することはできません(民法510条、民訴法152条、民事執行法施行令2条)。

担保

従業員が返済途中で退職したり行方不明になってしまうなど、給料からの天引きができなくなり貸し倒れに陥ってしまうというリスクは否定できません。

このような事態を防ぐためには、連帯保証人を最低でも1名は要求するなど担保の設定に関する規定を盛り込むべきです。

制度設計の際の注意点

労働基準法第17条には「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。」と規定されています。

これは労働者が会社から借金をすることによって辞めたくても辞められない状況になり、労働の強制あるいは身分的拘束に繋がることを防ぐための規定です。

したがって明らかに身分的拘束を伴わない金銭貸借関係は労働することを条件とする債権には含まれないものとされており、適切に制度設計された従業員貸付制度であればこの規定には違反しません

もっとも、借入金を完済するまでは退職を認めないといった規定は違法となりますので注意が必要です。

回収の方法

従業員が行方不明になった場合など給料からの回収が困難となったときには、連帯保証人などから回収を試みることになります。

任意の支払いに応じない場合には裁判などの法的手段を講じることになりますが、裁判を経ずに簡易的に債権を回収する方法として「支払督促」という方法があります。

支払督促とは、簡易裁判所に対して、申立人(貸主)の申立のみに基づいて簡易裁判所の書記官が相手方に金銭の支払を命じる制度です。

書類審査のみで迅速に解決を図ることが可能な手段ですので、解決を急ぐ場合には、この支払督促の送付による対応が有効と考えられます。

賃金の非常時払い

貸付制度とは異なりますが、従業員の急な出費に対応するための法律上の制度として、賃金の非常時払いがあります。

労働基準法第25条には、非常の出費を必要とした労働者から賃金の支払いを請求されたとき、会社は、既往の賃金の支払いをしなければならないと規定されています。

「既往の賃金」とはすでになされた労働に対する賃金をいい、非常の出費とは労働者またはその収入によって生計を維持する者が出産、疾病、災害、結婚、死亡、そしてやむを得ない事由により1週間以上帰郷する場合をいいます。

つまり、賃金の支払期日前に従業員から「子どもが怪我をしたので、賃金を前払いしてほしい」などと求められた場合、会社は従業員がすでに労働した分の賃金を支払う義務があります。

最後に

弁護士小林

従業員貸付制度は急な出費が必要となった従業員にとって利点の大きい制度であり、福利厚生の一環としてアピールできる点で会社にとってもメリットがあります。

しかし制度設計によっては違法となってしまったり、貸付金が回収できなくなってしまうおそれがあります

どのような制度にするかの検討や労使協定の締結や社内貸付規定の作成は弁護士のアドバイスのもとで進めることをお薦めいたします。

また従業員に貸し付けた金銭の回収でお困りの場合もお気軽にご相談ください。

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