新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、飲食店やライブハウスなどに休業要請や営業時間等の短縮要請が出されました。
5月14日に福岡県では緊急事態宣言が解除されましたが、依然として多くの事業者に深刻な影響が出ています。
このような状況のなかで、家主(賃貸人・貸主)に対してテナント(賃借人・借主)からの賃料の減額や免除の要求が行われるケースが増えています。
今回は賃貸人の立場から、テナントからの賃料の減額や免除に応じる義務があるかについて解説いたします。
契約書の解釈
賃料の支払い義務は賃貸借契約の締結によって成立し、契約の存続期間中は、当事者は契約の内容に拘束されます。
賃貸人に賃料の減額や免除に応じる義務が生じる場合があるとすれば、契約書の中にその根拠となる規定が必要です。
そこで、一般的な賃貸借契約書にそのような条項があるかが問題となります。
一般的な賃貸借契約書で賃料の減額・免除の理由となりえるのは、次のような規定です。
- 契約の内容について疑義が生じた場合の誠実協議条項
- 家賃相場が不相当になった場合の誠実協議条項
減額・免除に応じる義務は?
「契約の内容について疑義が生じた場合の誠実協議条項」とは、賃貸人と賃借人の間で契約書の文言や記載内容について争いが起きた場合に、両当事者は解決に向けて誠実に協議を行わなければならないという内容の規定です。
「家賃相場が不相当になった場合の誠実協議条項」は、地価の変動などによって契約時に設定した賃料が相場に比べて著しく高額になったり、逆に低額となった場合に、賃料が適正な価額になるように誠実に協議することを求めるものです。
これらの規定は当事者間の信頼関係を象徴的に示す形式的な意味しか持たず、何らかの法的義務を発生させるものではないとも考えられています。
したがって、新型コロナを理由とした賃料の減額・免除に賃借人が応じなかったとしても、直ちに賃料が減額・免除されることにはならないと考えられます。
国交省の要請
国土交通省は、2020年3月31日、賃料の支払いが困難な事情があるテナントに対しては賃料の支払いの猶予に応じるなど柔軟な措置の実施を検討するよう、不動産関連団体に対して要請を行いました。
この要請を根拠としてテナント側から賃料の減額や免除を要求される可能性もあります。
しかし、この通知はあくまで家主側に任意の協力を求めるものに過ぎず、強制力を伴うものではありません。
したがって、賃料の減額や免除をするかどうかは家主の任意に委ねられており、テナント側の要請に応じなければならないという性質のものではありません。
このように、契約書によほど特殊な規定がない限り、賃貸人にテナント側からされた家賃の減免要求に応じる義務はないでしょう。
家賃の減免に応じなかったときのデメリット
もっとも、法律論からは少し外れますが、家賃の減免に応じなかったときには賃貸人にとって次のようなデメリットも想定されます。
これらのデメリットを踏まえつつ、家賃の減免に応じるかどうかのご判断をしていただくことになります。
- テナント側が賃料を払えず契約が解除になる可能性がある
- 契約が解除にならなかったとしても、テナント側との関係性が悪化し、新型コロナウイルスが収まったときに他に移転してしまう可能性がある(この頃には、テナントの撤退などで良い物件の空きが多数生じている可能性があるため、テナント側に店舗移転のメリットがある)
- いったん契約が解除されてしまうと、新型コロナウイルスが収まっても新たなテナントが見つかりにくく、賃料を減らさざるを得なくなる可能性がある