はじめに

弁護士荻野哲也

美容整形の分野を中心として、ネットを中心に広告を出稿するクリニックが増えています。

しかし、広告の加熱を受けて、医療クリニックの広告は、ここ1〜2年で一段と厳しく見られるようになりました。

医療広告規制の具体的運用基準である医療広告ガイドラインが令和6年9月に改正されたほか、令和7年3月にはネットパトロール等によって蓄積された実際の事例をもとに「医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第5版)」も改訂されています。

さらに、令和6年以降は、Googleマップの口コミを巡る措置命令が医療法人に対して行われる事例も発生しています。

広告主だけでなく、制作・運用に関わる事業者(代理店)も、同種の措置命令を受けないための体制整備を求められています

本稿では、医療クリニックの広告に携わる方々が、医療広告チェックの基礎とすべき知識について解説します。

医療法と景品表示法~医療クリニック広告で重要な2つの法律~

クリニックのカウンセリング

医療クリニックの広告において、重要な規制として医療法景品表示法(以下、「景表法」といいます)があります。

これ以外にも問題となる法律はあるのですが、最も注意すべき法律はこの2つです。

【医療法と景表法の比較】
項目 医療法 景品表示法(景表法)
対象 医療機関(病院・クリニック)の広告 事業者全般の広告表示(医療機関も含む)
趣旨 医療サービスの特殊性を踏まえ、
患者に誤解や過度な期待を与えないようにする
消費者に実際よりも
優良・有利だと誤認させないようにする
具体例
  • 効果保証の禁止(「必ず治る」)
  • 比較広告・体験談・ビフォーアフター写真の禁止
  • 「名医」「日本一」など主観的優秀性の表現禁止
  • 優良誤認表示:「最新機器で必ず痩せる」
    →根拠がない場合NG
  • 有利誤認表示:「通常50万円が今だけ10万円」
    →通常価格が虚偽の場合NG
ポイント 広告できる情報そのものを限定
(客観的・限定的な範囲のみ)
表示に合理的根拠があるかを問う
(裏付けなき効果・価格訴求はNG)

【医療法と景品表示法(景表法)の比較】

医療法の対象:
医療機関(病院・クリニック)の広告
景表法の対象:
事業者全般の広告表示(医療機関も含む)
医療法の趣旨:
医療サービスの特殊性を踏まえ、患者に誤解や過度な期待を与えないようにする
景表法の趣旨:
消費者に実際よりも優良・有利だと誤認させないようにする
医療法の具体例:
・効果保証の禁止(「必ず治る」)
・比較広告、体験談、ビフォーアフター写真の禁止
・「名医」「日本一」など主観的優秀性の表現禁止

景表法の具体例:
・優良誤認表示:「最新機器で必ず痩せる」
→根拠がない場合NG
・有利誤認表示:「通常50万円が今だけ10万円」
→通常価格が虚偽の場合NG
医療法のポイント:
広告できる情報そのものを限定(客観的・限定的な範囲のみ)
医療法のポイント:
表示に合理的根拠があるかを問う
(裏付けなき効果・価格訴求はNG)

医療法と景表法の違いを簡単にまとめたものが上記になります。

医療法は、医療機関のみに適用されます。医療は、人の生命・身体に関わるサービスであるという特殊性から、他業種よりも厳しい広告規制がかけられていることが特徴です。

一方、景表法は、全ての事業者に適用される広告に関する規制で、クリニックにも適用されます。

景表法は、不当表示(すなわち本来の商品よりも著しく優良である又は有利な条件であると表示すること)を規制します。

代表的なNG例

この項では医療広告の制作・運用の現場で指摘頻度が高いNG例について、要点を解説します。

体験談(患者の感想・口コミ)

患者自身が実際に作成した口コミであっても、「○○で人生が変わった」「痛くなかった」等、患者の主観で効果を示す表現は禁止されています。

また、クリニックやそのスタッフが口コミを行う場合はもちろん、医療費の割引をセットにして高評価の口コミを書いてもらう場合であっても、事業者が関与したとして、景表法上のステルスマーケテティング規制(景表法5条3号)に該当します。

ビフォーアフター写真

術前後の比較(いわゆる「ビフォーアフター写真」)は原則禁止とされます。

ただし、治療内容の具体的説明・標準的費用・主なリスク等を十分に提示していればOKとされる場合があります

もっとも、リンク先任せや小さな注記では認められない可能性があります。

他の医療機関との比較広告

他のクリニックに対するネガティブキャンペーンや誹謗中傷は当然許されません。

しかし、医療法では、誹謗中傷ではない他クリニックとの単なる比較広告も禁止されています。

また、客観データがあっても、「日本一」や「県内有数」などの最上級の表現は使えないとされます。

費用の強調だけ(初回◯円!〇%OFF!等)

また、医療法の具体的な運用基準である医療広告ガイドラインにおいては「品位を損ねる広告」を禁止し、割引・キャンペーンを大々的に押し出す広告は禁止されています。

費用を表示することが禁止されるわけではありませんが、総額イメージ(最低〜最高)や別途費用の内訳を出すに留めるなど、派手に押し出さない措置が必要です。

違反・公表事例とリスク

リスク

直近の公表事例では、Googleマップの口コミで「星5」を条件にワクチン接種の割引提供したケースが、「事業者の表示であることを判別困難」として措置命令の対象になりました。

医療法人社団祐真会に対する景品表示法に基づく措置命令について

事例は、Googleマップのクチコミにおいて、星5又は4のクチコミを書いた患者に対して、ワクチン接種の割引を与えるというものでした。

この行為は、クチコミを実質的に事業者の表示と認めることができ、ステルスマーケティング規制(景表法5条3号)に該当するとされています。

当該医療機関には、是正命令及び法人名の公表が行われています。

また、同様にGoogleマップに良いクチコミを書いてもらうため便益を提供した事例として、以下の公表事例があります。

医療法人社団スマイルスクエアに対する 景品表示法に基づく措置命令について

消費者庁の公表事例において、現時点(2025年9月10日)で探せるのは上記の2事例ですが、今後、クリニックであっても景表法に基づく摘発を受ける可能性はあります。

なお、外部から確認できる事例は、主に消費者庁の公表事例しかありませんが、ネットパトロール事業について(令和5年度)から分かるとおり、水面下での指導事例は存在しています。

まとめ

当事務所では、多くの広告について、原稿段階・デザイン後の完成段階などにおいて事前チェックを行い、広告作成に伴走しています

スポットでのレビューから定期的なご依頼まで柔軟に対応します。お気軽にご相談ください。

  • 荻野哲也弁護士
  • この記事を書いた弁護士

    荻野 哲也(おぎの てつや)
    たくみ法律事務所 福岡オフィス所属
    福岡県朝倉市出身。久留米大学附設中学・高校、早稲田大学、同法科大学院を経て、司法試験に合格。学生時代にプログラミングを趣味にしており、IT企業のご支援、システム開発を巡る紛争の解決、システム開発業務委託契約書の作成・チェックに特に注力。広告法務(薬機法・景表法等)、個人情報保護法関連も得意としている。

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