一般社団法人福岡県私設病院協会様が2か月に1回発行している会報誌「福私病ニュース」において、弊所の弁護士が労務問題に関する連載を行っております。

連載中の記事を全文掲載いたします。

事例

「この質問って、ハラスメントじゃないですか!?」

看護師の採用募集に応募してきたOは、顔を紅潮させてそう言った。

たくみ病院の事務長Tは、咄嗟に「そんなことはありません。」と言ったが、その言葉は採用面接会場の会議室内にむなしく響いただけだった。

Oが激高したのは、看護部長Bが「結婚の予定はあるか」「結婚・出産後も仕事を続けられるか」と繰り返し質問したことが原因だった。

実はTは今までもBがそのような質問をする場に居合わせたことがあった。しかし、Bはもともとざっくばらんに話をするタイプということもあり、Tはそこまで問題意識を抱いていなかった。また、看護師の採用方針については基本的に看護部長に一任しており、Tが口出しをしづらい雰囲気があるのも事実だった。

面接はぎこちない空気のまま終了した。

事務長室に戻った後も悶々とした気持ちが収まらないTは、しばらく悩んだ末に総務部長Mに電話をかけた。


M:「もしもし、私です。事務長から電話してくるなんて珍しいですね。」

T:「腹を割ってこういう話ができるのは君しかいないんだ。今回の件、君はどう思うかね?」

M:「はっきり言って、何も気にする必要はありませんよ。『結婚・出産後も働けるかどうか。』これは人を採用する私たちにとっては重要な情報です。それを面接で確認して何が問題なのでしょうか。」

T:「しかし、今日の応募者はそれがハラスメントだと言うんだ。」

M:「仮に今回の質問内容に問題があったとしましょう。そうだとしても、今回の応募者はあくまで募集に応募してきただけの者に過ぎず、現時点ではたくみ病院との雇用関係はありません。パワハラ、セクハラといったハラスメントが問題とされるのは、あくまで雇用関係があることが前提ではありませんか?」

T:「そうかもしれないが…。」

M:「採用が決まった後にミスマッチが判明すればお互いにとって不幸です。私はむしろ採用面接ではプライベートなことにどんどん踏み込んで質問をするべきだと思いますがね。」

T:「しかし…。それって大丈夫なの?」

解説

はじめに

近頃、「就活ハラスメント」という言葉を耳にするようになりました。

2019年には、大学生らが厚生労働省に就活ハラスメントに関する実態調査の実施や相談窓口の設置を求める要望書を提出したという報道がありました。

今回は、就活ハラスメントの法的問題点と企業がとるべき対応について解説いたします。

就活ハラスメントと法的規制

就活ハラスメントに明確な定義はありませんが、一般的に、採用面接やインターンシップなど就職活動の場で企業から応募者に対して行われる嫌がらせを意味します。

採用試験でわざと威圧的な態度をとったり答えづらい質問をする面接手法(いわゆる「圧迫面接」)は、応募者のストレス耐性を見抜くための方法として一定程度許容されていますが、度を過ぎれば違法とされる可能性があります。

また、面接の担当者はハラスメントに当たるという認識を持っていなかったが、実際は就職差別に繋がる不適切な質問だったという場合もあります。

たとえば応募者の生い立ちや思想・信条、そして今回の事例でも取り上げた出産の予定に関する質問がこれに当たります。

では、就活ハラスメントは法律上どのような規制に抵触するのでしょうか。

結論を先に申し上げると、就活ハラスメントを直接規制する法律の規定はありません

「労働法に違反するのではないか」と思われるかもしれませんが、労働法は使用者と労働者の関係を規律する法律であり、労働者性が認められない応募者は法律の射程の範囲外となります。

2020年6月に施行された改正労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」)でも、雇用関係にないインターンや応募者は適用対象外とされ、指針において「必要な注意を払うよう努めることが望ましい」とされるに留められています。

もっとも、応募者に対して不適切な言動が行われ、その結果として応募者が精神的損害を負ったりメンタル不調を患ったりしたときには、民法の不法行為に該当するとして、損害賠償請求を受けるおそれがあります。

そして、無視することができないのが「レピュテーション・リスク」です。

レピュテーションリスクについては本連載で何度か取り上げてきましたが、不適切な採用活動が行われた事実がインターネット上の口コミサイトに書き込まれたり、面接が秘密で録音されて公開されたりすれば、信用が大きく損なわれ、その後の採用活動が困難になったり、関係者の信頼を失うおそれがあります。

採用の際に気を付けるべきこと

雇用関係にない応募者は労働法による保護の範囲外だとご説明しましたが、当然、応募者に対するパワーハラスメントやセクシャルハラスメントに当たるような言動は避けるべきです。

人格を否定するような発言、性的な発言、男女雇用機会均等法の趣旨に反する質問(女性に結婚や出産の予定を尋ねるなどの質問)などはするべきではありません。

いわゆる「圧迫面接」は直ちに違法になるものではありませんが、応募者のストレス耐性を見極めるという目的に照らして必要な範囲を越えると損害賠償請求や刑事罰の対象となる可能性がありますので注意が必要です。

採用面接の際、つい応募者の家族や信条といった個人的な事項を尋ねたくなることがあるかもしれません。

しかし、選考は「応募者が求人職種の職務を遂行するにあたって必要な適性や能力を有しているか」という点のみを基準にして行うべきで、本人の責任のない事項や、本来自由であるべき思想・信条にかかわることを質問すべきではないとされています。

同じ理由でこれらの事項をエントリーシートに記載させたり作文の題材としたりすることも避けた方がよいでしょう。

厚生労働省は、面接時において尋ねる、作文を課すなどによって次の事項を把握することは就職差別に繋がるおそれがあるとしています。

【本人責任のない事項の把握】

  1. 本籍・出生地に関すること
  2. 家族に関すること(職業・続柄・健康・地位・学歴・収入・資産など)
  3. 住宅状況に関する事(間取り・部屋数・住宅の種類・近隣の施設など)
  4. 生活環境・家庭環境に関すること

【本来自由であるべき事項の質問(思想・信条にかかわること)の把握】

  1. 宗教に関すること
  2. 支持政党に関すること
  3. 人生観・生活信条などに関すること
  4. 尊敬する人物に関すること
  5. 思想に関すること
  6. 労働組合(加入状況や活動歴)、学生運動などの社会運動に関すること
  7. 購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること

「尊敬する人物は誰ですか?」「愛読書はありますか?」などは定番の質問のようにも思われますが、本人の適性や能力と直接的に関係のある事項ではありませんし、質問の仕方によっては応募者の思想・信条を詮索する質問だと受け取られる可能性があります。

これらの項目はハローワークで配布されている厚生労働省発行の『公正な採用選考をめざして』という冊子に記載されていますので、応募者も「問題のある質問だ」という認識を持っていると理解しておきましょう。

最後に

採用活動に直接携わる従業員の不適切な言動はそのまま企業の責任として捉えられてしまいます。

採用活動に携わる従業員には事前研修を行うなどしてトラブルを未然に防止しておくことがとても大切です。

医療機関に限らず多くの企業が人材不足・採用難に直面しています。

今や「企業が選ぶ時代」から「企業が選ばれる時代」に入っていると言えます。

優秀な人材を採用する機会を逸しないためにも、コンプライアンスの意識を持って採用活動に取り組むべきでしょう。

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