新型コロナウイルス感染拡大の影響による解雇・雇止めの人数が9月23日時点で累計6万人を超えたというニュースがありました。
多くの事業者が依然として非常に厳しい経営状況にあり、今後、取引先からの支払いが滞ったりする事案が増えてくることも予想されます。
そのようなときに備えて、自社がとりうる債権回収の手段を確認しておく必要があります。
債権回収の手段としては、今回ご説明する法的手段のほかに、任意の交渉による方法があります。
もちろん、任意の交渉により取引先との関係を悪化させずに回収できるに越したことはありませんが、現実には任意の交渉で回収できず弁護士へ相談に持ち込まれるケースも多いです。
契約を解除する
「支払期限を過ぎても入金がなされない」「納期になっても商品が届かない」など相手の契約違反がある場合においては、債務不履行として契約を解除したうえで、代金もしくは商品の返還を受けるという手段が考えられます。
債務不履行解除を主張するにあたっては、個別の契約内容を確認することになりますが、一般的には履行が滞っている場合には催告を行ったうえで契約を解除できるとされていますので、解除を視野に入れつつ書面にて催告書を送付することになります。
なお、契約上解除ができ、相手に商品の返還義務があるとしても、勝手に商品を持ち出したりすることは禁じられていますので注意が必要です。
忘れがちな商事留置権・先取特権
意外と認知されていませんが、商取引においては、契約で合意をせずとも、担保権が法律で定められているものがあります。
その例が、商事留置権と先取特権です。
商事留置権とは、商取引によって債権者の占有となった債務者所有の物などを債権の弁済を受けるまで、返還せず留めおくことができる権利です。
何らかの物を預かって業務をする業態(修理業、業務委託、倉庫業)等においては、商事留置権を検討することになるでしょう。
また、先取特権とは、ある特定の債権を有する債権者に、債務者の財産から優先弁済を受ける権利です。
代表的なものに動産売買先取特権と呼ばれるものがあり、動産の売主は、売買目的物から代金債権について優先弁済を受けることができ、この動産が第三者に転売されても、その転売代金債権を差し押さえることができます。
その他の債権回収方法
以上のほかには、取引先に債務を負っている場合に相殺によって回収を図ったり、譲渡担保契約など、当事者間の合意によって担保を設定しておいた場合に、担保権の実行する方法などが考えられます。
また、債務者に保証人がいる場合であれば、保証人に対する請求が考えられます。
4月からの債権法改正により、個人根保証には極度額を定めなければ無効となるなど、保証に関する規制が大きく改正されています。
契約上保証人を取っている場合においては、再確認が必要でしょう。
最終手段…裁判手続による場合
以上のような手段を検討しても回収が難しい場合には、裁判手続をとる必要があります。
訴訟を提起し、勝訴判決を得て強制執行するというのが基本的な方法ではありますが、裁判手続をとるべきかどうかは、判決を取得するまでの時間や、それまでにかかる費用、債務者に回収できる資産があるかなどを考慮したうえで判断する必要があります。
また、訴訟提起前に財産を調査し、仮差押え等で財産を保全しておく方法もあります。
ちなみに、新型コロナウイルス感染拡大にかかる支援策として持続化給付金を受ける権利は差押え禁止財産とされているため、裁判手続などをもってしても差し押さえることができません。
ただ、持続化給付金が口座に振り込まれれば預金債権となるため差押えは可能となります。
倒産手続との関係
売掛金のある取引先が倒産してしまったが、どうすればよいかという相談をよくいただきます。
基本的には、取引先が倒産(破産手続)してしまった場合には、破産財団といわれる破産会社に残った資産から債権者に配当されることになります。
しかし、共益費用、租税債権や労働債権などが優先されることから、一般債権者に配当されるときにはほぼ財団(資産)が残っていない場合がほとんどだと思われます。
したがって、基本的には破産手続開始決定がなされる前に回収に動くのが鉄則です。
ただし、破産手続が開始される前であっても、取引先の経営悪化を知って支払期限前に回収した場合などは、のちの破産手続きで取り消される(否認される)可能性もあるので、注意が必要です。
なお、破産手続を開始したとしても、特定の担保権(抵当権、動産売買先取特権等)の行使は破産手続に影響されずに実行できる場合もあります。
最後に
今回は債権回収の基本的な手段の概要をご説明いたしました。
それぞれの法的手段にはメリット・デメリットがありますし、取引先の経営状況や資産状況などの情報収集なども重要ですので、お困りの方は是非弁護士にご相談ください。