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テレワークの法的問題の概要についてはこちらの記事でご説明しましたが、今回は少し深堀して解説したいと思います。

労務管理上の課題は多い

実際にテレワークを導入したという話も聞きますが、労務管理上の課題は多く、弊所にも

  • 「実際どのような労働時間制を採用すればよいのか?」
  • 「労働時間をどう管理しないといけないのか?」
  • 「就業規則を改訂しないといけないのか?」

などの相談をいただいています。

また、「テレワーク勤務規程を作成したものの、実際に労働法規上の問題はないのか?」という疑問を持たれている方も多いと思われます。

どの労働時間制を採用すべき?

弁護士吉原

今回は、テレワークを導入する際に、どのような労働時間制を採用しなければいけないのか、についてご説明します。

この判断の難しさが、テレワーク導入が進まない理由の一つでもあります。

通常の労働時間制度は、9時~18時(1時間休憩)などと労働時間の定めがあり、法定労働時間(8時間/日)を超えた18時以降の時間について残業代を支払う、といったものです。

これ以外の労働時間制として、変形労働時間制やフレックスタイム制、事業場外みなし労働時間制、裁量労働制などが挙げられます。

どの労働時間制度を取り入れるべき?

就業場所が会社から自宅に変わるだけで労働時間の算定ができるのであれば、当然、通常の労働時間制度を採用することもできます。

ただし、テレワーク、特に自宅で勤務する場合は、私生活と仕事の区別が曖昧となり労働時間の管理が適切にできないという場面が容易に想定されます。

そこで、候補として最初の検討対象になるのが、「事業場外みなし労働時間制」です。

事業場外みなし労働時間制とは?

労働基準法38条の2第1項前段には、事業場外みなし労働時間制について次のように規定されています。

労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。

簡単にいえば、会社以外で働く場合で、労働時間の算定が難しい場合には、所定労働時間労働したものとみなすという制度で、外回りの営業担当者などによく適用されます。

これだけ聞くと、テレワークを導入するときはこの制度を適用すべきでは?と思われるかもしれません。

ここで難しいのは、適用の要件である「労働時間を算定しがたい」という基準が厳格であることです。

「労働時間を算定しがたい」とは

では、どういった場合に「労働時間を算定しがたい」といえるのでしょうか。

平成30年に厚労省が策定した「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」では、テレワークにおいて、「労働時間を算定しがたい」といえるには、

  1. 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態にしておくこととされていないこと
  2. 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと

の2要件をいずれも満たす必要があるとされています(平成20.7.28基発0728002号も同旨)。

同要件は、あくまでガイドラインであり、法的拘束力を有するものではありませんが、導入時は必ず参照すべきものです。

テレワークでは常時通信可能とするのが一般的

ただ、この要件を単純に適用すると、基本的に多くのテレワークは、事業場外みなし労働時間制が適用できないことになります。

なぜなら、テレワークにおいては、情報通信機器(携帯電話、メール等)が常時通信可能としているのが一般的であるためです。

とすれば、テレワークは事業場外みなし労働時間制は適用できないのでしょうか?

阪急トラベルサポート事件

ここで、事業場外みなし労働時間制における「労働時間を算定しがたい」の要件が問題になった裁判例(阪急トラベルサポート事件最高裁判決(最高裁平成26年1月24日判決))を見てみましょう。

この事案は、海外ツアーの添乗員について、①携帯電話で常時接続できる状況となっているだけでなく、②業務内容が事前に詳細に取り決められ、添乗員(従業員)はこれをできる限り維持することが求められていること③業務終了後に報告書の提出が求められていることを理由に「労働時間を算定しがたいときには当たらない」と判断しました。

事業場外みなし労働時間制は認められないとした裁判例ではありますが、①の要件のみで判断しているわけではないという点が注目されます。

以上から、テレワーク=事業場外みなし労働時間制を採用できないと短絡的に判断すべきではないと思われます。

現実的なテレワーク対象者は??

現実的には、随時指示命令を受けなければ遂行できない業務を担当する従業員をテレワークの対象従業員としたうえで、情報通信機器の接続については、その従業員に一定程度任せるという判断で実践するのが無難ではあるでしょう。

また、別の視点では、テレワーク環境は、

  1. 仕事だけに集中できる環境(サテライトオフィスや出張先ホテル等)
  2. 仕事とプライベートが混在する環境(子どもの世話や介護をしながら働く等)

に分けられ、1の場合は、ツール活用により労働時間算定は困難ではないため、事業場外みなし労働時間制の適用は避けるべきであり、2の場合は、事業場外みなし労働時間制を適用する余地があるという見解もあります(川久保皆実「テレワークの疑問解決Q&A」ビジネス法務2020年1月号(中央経済社))。

この基準も一つの参考になると思います。

この記事は、公開時点での情報に基づいて執筆されています。

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