近年、アルバイト従業員などが悪ふざけをした様子をツイッターなどのSNSで投稿して炎上騒ぎとなり、会社が謝罪会見をしたり、店舗が閉店に追い込まれたりする事件(いわゆる「バイトテロ」)が多発しています。
また、従業員やその家族が顧客の個人情報を漏洩し、会社が謝罪会見を行うといった事件も続いています。
実際の炎上事案
2019年の頭には、くら寿司の従業員が一度ゴミ箱に入れた魚を拾い上げてまな板に載せた動画、ビッグエコーの従業員が唐揚げを床に擦りつけてそのまま調理する動画などがSNS上で拡散され、世間を騒がせました。
このような事件以外にも、従業員がSNS上に、会社の機密情報を投稿したり、会社や上司を誹謗中傷する内容の投稿をしたりするなど、SNSに関連する事件や問題はいつ起こるか分かりません。
そこで、今回は、従業員がSNSの個人アカウントから不適切な内容の投稿をすることを防止するための方法や問題点、不適切な投稿をした従業員に対する対応について説明します。
SNS利用の全面禁止はできるか
会社が従業員のSNS利用を全面的に禁止することは、一般的には難しいと考えられます。
これは、SNSの利用はあくまでプライベートに属する事柄であり、これを全面的に制限することは、私生活への過度な干渉になるためです。
就業規則などでルールを作る
懲戒処分という罰があれば、SNSでの不適切な投稿に対する抑止力になりえます。
懲戒処分の可否は、就業規則において懲戒処分の対象行為としてSNSでの不適切な投稿が規定されているかどうかが重要なポイントになります。
そこで、就業規則の服務規律において、企業秘密や顧客情報、会社の役員や従業員の個人情報をSNSに投稿する行為や、会社や役員・従業員のイメージ・社会的信用を悪化させる投稿をしてはならないと規定すべきです。
そして、懲戒処分の規定において、これらの服務規律に違反した場合には懲戒処分の対象になる旨を明記すべきです。
また、業務命令により不適切な投稿を削除させるためには根拠規定が必要になるため、そのような規定を置くことが望ましいです。
契約社員やパート・アルバイト社員も含めた全従業員を対象にすることも忘れないようにしましょう。
誓約書を作成・提出させる
従業員に誓約書を作成させると心理的な強制力が働き、SNSでの不適切な投稿を防ぎやすくなります。
もっとも、単に「不適切な投稿をしません。」といった抽象的な内容の誓約書を書かせるだけでは不十分です。
従業員が禁止行為を具体的にイメージできず、抑止力も不十分になりやすいためです。
そこで、正確な情報を発信することや、誤解を招く表現をしないこと、会社名などを明らかにしないこと、会社や他の人・団体を誹謗中傷しないこと、プライバシー権や肖像権、知的財産権を侵害する投稿を行わないことなど、具体的な禁止事項を記載すべきです。
就業規則や誓約書とは別に、SNS利用にあたっての留意点や禁止事項を明記したSNS利用ガイドラインを作り、誓約書では、そのガイドラインを守ることを約束させるということも考えられます。
教育・研修
禁止事項を説明した上で誓約書を書かせたとしても、書いてから一定期間が経過すると、抑止力が弱まったり、禁止事項に関する記憶が薄れたりします。
そこで、定期的にSNSに関する教育・研修を行い、SNSの特殊性や不適切な投稿が懲戒処分の対象になることを繰り返し理解させることが重要になります。
また、不適切な投稿を行った従業員に懲戒処分を課すことができるかどうかは、このような教育・研修を行っていたかどうかも重要なポイントになります。
従業員に伝えるべきSNSの特殊性としては、以下のようなものがあげられます。
- SNSで投稿された情報は、リツイートやシェアなどで広範囲に拡散し、他の人が保存してしまえば完全な削除ができなくなる。
- 投稿内容の一部分だけが拡散され、投稿者が意図しなかった内容で拡散される。
- 過去の投稿内容から会社が特定され、会社のイメージダウン、会社製品の不買運動などにつながり、店舗の閉鎖や会社の倒産などにつながるおそれがある。
- 過去の投稿内容から投稿者が特定され、顔写真や氏名、住所などの個人情報が半永久的にネット上に残り、企業秘密や顧客の個人情報を漏洩した悪者というレッテルが付き続ける。
- 不適切な投稿を行った場合、民事上の不法行為責任、刑事上の名誉棄損罪や侮辱罪、威力業務妨害などが成立する可能性がある。
また、バイトテロにより閉店に追い込まれたケース、店舗設備の清掃や商品入替え、その間の休業損害等について従業員に賠償請求したケースなどの実例を紹介すると、従業員の理解が高まります。
SNS炎上対策ツールを利用する
会社が常に自社の評判や批評を確認し続けるのは現実的ではありません。
そこで、Googleアラートなどのサービスでエゴサーチを代わりに行ってもらったり、ネット風評監視・モニタリングのサービスを利用したりして、いざ炎上騒ぎが起きてしまった場合に直ぐに対応できるようにしておくべきです。
不適切な投稿が行われた場合はどうするか
(1) 証拠保全
まずは、不適切な投稿が削除されてしまう前に、その投稿内容をスクリーンショットしたりプリントアウトしたりして、証拠を保全する必要があります。
(2) 事情聴取
証拠保全をしたら、投稿を行った従業員と面談して不適切な投稿について事実確認し、投稿した経緯や理由について事情聴取します。
(3) 投稿内容の削除
先にご説明したとおり、業務命令として投稿内容の削除を命じるには就業規則などの根拠規定が必要になります。
従業員を説得して自主的に削除させる場合は、従業員が自らの意思で削除したことを証拠化しておくべきです。
(4) 懲戒処分
懲戒処分を課せるかどうかは、業務と直接的な関係性があるかどうかが問題になります。
会社の機密情報や、顧客情報、会社の新商品の開発情報など、会社の業務と直接的な関係性を有する情報を投稿した場合は、懲戒処分の対象になります。
他方で、業務と関わりのないプライベートな内容を投稿したことで会社にクレームが入った場合には、会社の社会的評判に及ぼす悪影響が相当重大な場合に限り、懲戒処分の対象になります。
(5) 損害賠償請求
あらゆる損害の賠償を求められるわけではありません。
不適切な投稿を行った従業員に対して損害賠償請求できるのは、当該投稿と相当因果関係が認められる範囲内の損害に限られます。
相当因果関係の範囲内の損害に限るというのは、その従業員が当該投稿を行った当時に予測できなかった損害が除外される(会社は請求できない)といった意味になります。
そのため、従業員に対する教育・研修を行い、発生しうる会社の損害を理解させておく必要があります。
(6) 刑事告訴
悪質なケースであれば、刑事告訴も視野に入れるべきです。
最後に
常識を持った大人であれば、注意喚起されるまでもなく、不適切な投稿をしないのは当然のことのようにも思われますが、SNSで簡単に情報発信できるようになった現代では、いったん投稿された会社の不利益情報は直ぐに拡散して炎上し、半永久的にネット上に残り続けるおそれがあり、対策を講じることは必須です。
そのためには、適切な就業規則の整備や十分な教育・研修が必要になります。
また、いざ不適切な投稿が行われた場合に懲戒処分を行えるかどうかは慎重な判断が必要になります。
SNSの利用に関する就業規則の作成や、不適切な投稿を行った従業員に対する懲戒処分の可否などについては、一度弁護士までご相談ください。
SNS利用に関する就業規則の定めの雛形ダウンロード
以下のフォームから、SNS利用に関する服務規律と懲戒事由の定めの雛形をダウンロードしていただくことができます。
あくまでサンプルですので、実際のご利用に際しては弁護士にご相談ください。