はじめに−債権回収における弁護士の思考−

弁護士壱岐晋大

企業法務関係で債権回収についてのご相談は非常に多いです。

例えば「取引先のA社が、さまざま理由をつけて代金200万円を払わない。早く回収したい」という相談があった際、弁護士として検討することは、まずそもそも権利行使できるのか?(請求原因があるのか、相手方からの抗弁等の事実)です。

そして、権利行使ができると判断された場合の次に、回収ができるのか?という問題が発生します。

今回の記事では、権利行使(請求に理由がある)ができることを前提として、債権回収の手続としてはどのようなものがあるか?どこまでが自社でできるのか(どこからが弁護士に依頼しないとできないのか)?についてまとめています。

債権回収の手続−自社でどこまでできる?−

債権回収の手続としては、下記の図の流れが一般的です(あくまで一般的な流れで、事案によって、順番が前後する場合もあります。)。

債権回収の手続き

※保全手続、強制執行手続については別の機会に説明させていただきます。

請求

封筒

当然ですが、まずは「請求」です。

通常、請求書を送付します。

葉書、FAXや普通郵便での請求書送付から→(弁護士名義での)内容証明郵便(「○○日以内に対応しなければ法的手続きをとります」といった文言を入れることもあります)と段階を踏むことが一般的です。

弁護士に依頼!?

内容証明郵便も含め請求書発送は自社でも発送できますが、弁護士に依頼の上、名義を弁護士にすると相手方に本気度が伝わります

交渉

請求後、相手と連絡が取れる場合には、電話もしくは書面にて交渉することになります。

権利行使の可否についてもそうですが、支払能力を見極めながら交渉することになります。

弁護士に依頼!?

債権回収のための交渉は当然自社でもできます。

ただ、他人のために相手方と交渉をすることは弁護士法違反となります。

当事者の代理をする業種については要注意です。

また、通常は考えにくいですが、請求権を持っていても脅迫、恐喝罪として犯罪となる場合があることも知っておくべきでしょう。

裁判手続

裁判

連絡が取れない場合、交渉においても双方の主張が乖離している場合においては、裁判手続に移行します。

裁判手続としては、図でも記載したとおり、支払督促手続、調停手続、通常訴訟手続があります。

重要なのは基本的に、資産について差し押さえをする等強制執行をするには、裁判手続を経なければならないという点です。

支払督促

支払督促とは、金銭債権等の請求について、申立てにより理由があると認められる場合、裁判所が相手方に支払督促を発するもので、相手方が2週間以内に異議の申立てをしなければ、仮執行宣言が出され、これをもとに強制執行することができます。

ちなみに、異議申し立てがなされると、通常の訴訟手続きに移行してしまいかえって時間がかかる場合があります

つまり、相手が争わないと予想される場合で早期に強制執行をしたい場合に有効です。

民事調停

民事調停とは、訴訟と異なり裁判官の他に一般市民から選ばれた調停委員が加わり協議による合意を目的とすることを前提とした手続です。

取引先との関係を悪化させたくない場合や、非公開手続でやりたい場合など有効です。

少額訴訟

60万円以下の金銭債権の請求については、少額訴訟手続が利用できます。

事案が複雑でない事件等が前提とされており、1回の審理で判決が出るというスピードがメリットです。

通常訴訟

上記以外の場合の裁判手続です。

訴訟の提起は請求額が140万円以下は簡易裁判所、140万円を超える場合には地方裁判所で行います。

複数回の審理を経て裁判となり、少なくとも3、4回程度は審理を重ねること、審理間は1、2ヵ月期間が空くことからすれば時間のかかる手続きで、スピードが重視される債権回収にはそぐわない場面も多いです。

弁護士に依頼!?

裁判手続は弁護士に依頼せずとも自社でできます。

特に支払督促や民事調停等は自社でも対応できる場合もあると思います(手続きを自社でするための講習等もご相談ください)。

ただ、通常訴訟等は事案が単純なものを除き弁護士に依頼すべきでしょう。

信用調査 −判決はただの紙?−

調査

請求をして、また交渉をして、裁判になり、実際に相手が払ってくれれば問題はありません。

しかし、相手方に支払能力がない場合や、相手方が支払いを拒絶した場合、そもそも連絡がつかない場合等には、強制執行せざるをえず、そのための財産調査が必要になることもあります。

判決をとっても自動的にお金になるわけではなく、相手方に資産がなければ、ただの紙になってしまうおそれがあります。

相手方からの調査

自身の資産等をわざわざ教えてくれることは少ないと思いますが、取引先、取引銀行、勤務先(個人の場合)などを教えてくれる可能性もあります。

その他調査

本人以外の取引先、関係者からの調査や、ホームページ(取引銀行を記載している場合もあります)、SNS(Facebook、Twitter等)の調査が功を奏する場合もあります。

探偵事務所などを用いる場合もあるでしょう。

法人登記、不動産登記、住民票取得

法人登記には、資本金額や代表者の住所等が分かり、不動産登記は不動産、個人の場合、住民票を取得することによって、家族関係、居住地等が判明します。

預金

弁護士会照会という弁護士が利用できる手続により、裁判で判決を取ること等の一定の条件を前提に、特定の銀行に対して、相手方の預金口座の有無を確認することができます(ただ、一行ずつ約7,000円程度の手数料がかかるためある程度、銀行を特定した上でするのが通常です)。

銀行の中には、個人情報保護等を理由に、弁護士会照会手続によっても拒否していた銀行もありましたが、最近3メガのなかで唯一拒否していたみずほ銀行も今年1月これに応じることとなりましたし、現在は特段拒否される銀行はほぼありません。

生命保険

相手方が、解約返戻金のある生命保険を契約している場合、生命保険契約を解除し解約返戻金を差し押さえることができます。

生命保険契約加入の有無についても、弁護士会照会手続を利用することによって、生命保険協会に対し調査することができます。

弁護士に依頼!?

住民票の取得、判決後の預金口座、生命保険の調査については弁護士に依頼しなければできません(職務上請求、弁護士会照会手続)。

最後に−不良債権化しない予防が重要−

弁護士壱岐晋大

以上のように、いくら裁判で判決を獲得しても、相手方が払ってくれなければ強制執行の手続を取らざるをえない場合があります。

また強制執行によっても1円も回収できない場合もあり、財産の調査は必要です。

また、請求が契約に基づく場合には、契約段階において、担保を付ける等事前の対策も必要でしょう。

なお、上記で説明した回収方法はいわば正攻法なので、回収方法や調査方法としても様々な方法もありますので、今後また紹介できる機会があればと思います。

  • 債権を回収したいがどこまでできるのか?
  • 債権回収で問題にならないための契約書はどう作成すべきか?
  • 債権保全のために有効な契約条項とは?
  • 請求文書のフォーマットを作成してほしい。

等相談等ありましたら、ご相談下さい。

債権回収を弁護士に依頼するポイント

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弁護士 壹岐晋大
1986年山口県生まれ。 企業法務分野に取り組む際には、『経営者と同じ方向を見る』という姿勢を一貫しており、企業の『考え方』を共有し、『目標を達成』することを大切にしている。

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