はじめに

近年、ハラスメント(パワハラ・セクハラ・マタハラなど)を理由に退職した従業員から、会社や加害者個人に対して損害賠償請求が行われるケースが少なからず見受けられます。
退職時に限らず、ハラスメント問題が起きたときに会社が誠実に対応しなければ、風評リスク・法的責任・労基署や監督官庁からの行政指導等に発展しかねません。
他方で、請求の中には事実関係が曖昧、あるいは誇張された主張も散見されます。
調査をしないままもしくは曖昧な事実関係を理由に、加害者とされる従業員に懲戒処分等を下すと、加害者従業員から処分の無効や賠償請求を主張されることにもなりかねません。
ハラスメント問題の対応は、難しい判断を求められます。
会社として考えられうる対応
1. 事実関係の調査
まずは、社内調査を徹底することが不可欠です。
- 当該従業員 / 関係者へのヒアリング
- メール・チャット / 録音 / 勤務記録の確認
- 面談メモ / 人事評価記録の収集
等を行い、具体的な発言・行為・日時・関係者等を客観的に整理します。
なお、調査の際は、被害者のプライバシーに配慮する必要がありますので(特にセクハラの場合)、加害者や第三者への事情聴取に際しては、どこまで情報を公開して良いかを被害者に事前に確認しておくことが望ましいです。
また、加害者(とされる者)に対しても、一方的に悪いと決めつけるような調査態度は避けるべきです。
当人の尊厳を傷つけることになりかねませんし、もしハラスメントの事実が確認できなかった場合、当人から損害賠償を請求されるリスクにもなります。
調査に際しては、可能であれば外部弁護士や第三者委員会を活用し、調査手続の公平性・中立性を担保することが重要です。
2. 被害者(とされる者)及び加害者(とされる者)への対応
まず、ハラスメントが事実であるかどうかはさておき、被害者と加害者を物理的に引き離す必要があります。
両者が接触できる状況を放置すると、さらなるハラスメントや報復ハラスメント等の二次被害に発展しかねません。
被害者に対しては、そのプライバシーを守りつつ、適切な調査を行ったうえで、調査結果を適切に伝える必要があります。
仮に、ハラスメントの事実が確認できず、加害者への処分を行わない場合は、その調査経過や理由を誠実に説明すべきでしょう。
ハラスメントの事実が確認できた場合は、今後加害者との接触がないよう配慮することも必要です。
加害者に対しては、一方的に悪いと決めつけるような調査は避けましょう。
被害者の申告は、あくまで被害者視点での主張ですので、先に客観的証拠や周囲の人からの情報収集を行い、会社として把握できた客観的事実に基づいて、加害者の聞き取り調査を行うべきです。
仮にハラスメントの事実が確認できた際は、懲戒処分を検討します。ただし、処分の相当性を失すると、後に処分の無効や損害賠償を請求される可能性もあるので、注意が必要です。
3. 再発防止策の検討
ここまで述べたとおり、一度ハラスメント問題が起きてしまうと、会社は多くの対応を強いられることになり、日常業務の停滞や業務効率の低下にもつながります。
ハラスメントは、事前に予防し、また、早期に芽を摘んでおくことが重要です。
ハラスメントに関する損害賠償請求を根本的に防ぐためには、組織的な予防と早期対応体制が不可欠です。
- 相談 / 通報体制の整備
- 管理職研修 / 定期的な啓発
- 退職時面談 / フォローアップ
などの対応ができているか、今一度確認することをお勧めします。
終わりに(弁護士を入れるメリット)
ハラスメント問題は初動が最も重要です。
問題が起きた際には、迅速かつ適切な調査・対応を行う必要がありますが、会社独自で対応することにも限界があります。
専門的知識を有する弁護士や社労士等に相談し、場合によっては第三者機関としての証左を依頼することで、事態の悪化を防ぎ、会社の法的責任を軽減することにも繋がるでしょう。
また、ハラスメントは、何よりも予防と早期対応が重要です。
日頃から、ハラスメントセミナー等で従業員の意識を高めたり、ハラスメントの可能性を発見した場合には、早めに弁護士に相談して対策を考えたりすることが、紛争の予防に繋がります。
弊所では、労務問題に強い弁護士や、ハラスメントセミナーの経験がある弁護士が多数在籍しておりますので、お困りの際は、お気軽にご連絡ください。
お問い合わせはこちら












