悩み

平成30年7月13日に改正民法(相続関係)が公布されました。

遺言書の保管制度は2020年7月10日から、配偶者短期居住権と配偶者居住権については2020年4月1日から施行される予定です。

自筆証書遺言の要件緩和は2019年1月13日から、それ以外については2019年7月1日からすでに施行されています。

今回は、企業経営者の皆様にとって重要な遺言書作成に関わる改正と企業経営との関係について解説します。

民法改正に伴う契約書チェックプラン

自筆証書遺言に関して

遺言書の保管制度が新設されました!

これまで自筆による遺言書は自宅で保管されていることが多く、作成しても紛失してしまったり、相続人の方がうっかり(あるいは故意で)捨ててしまったり、書き換えられたりする危険性がありました。

せっかく跡継ぎに会社財産を引き継がせようと思って遺言書を作成しても、遺言書が適切に保管・発見されなければ意味がありません。

そこで、今回の改正では、自筆証書遺言をより利用しやすくするために、法務局にて、遺言書の原本及びデータを保管することができるようになりました

①遺言書の保管の申請 住所地又は本籍地等の法務局で申請可能です。遺言書の作成については、法務省令で定める様式に従う必要があります。
②遺言書保管官による遺言書の保管及び情報の管理 原本だけではなく、データでも保管されます。
③遺言者による遺言書の閲覧、保管の申請の撤回 申請後の閲覧・撤回も可能です。
④遺言書の保管の有無の照会及び相続人等による証明書の請求等 相続人は、自らに対する遺言書の有無の確認や画像情報の閲覧請求が可能です。
⑤手数料 保管申請、閲覧請求、証明書の発行等には手数料を要します。

自筆での遺言が作成しやすくなります!

以前は、自筆で遺言書を作成する場合、全文の自書が要件とされているため、たとえば、本文だけではなく、財産の目録(土地や建物の情報や預金情報等)も全文自書する必要があり、かなりの労力を要していました。

今回の改正では、財産目録の部分のみパソコンで作成をしたり、通帳のコピーや不動産の登記事項証明書を目録として添付したりできるようになっています

ただし、添付資料への署名捺印が必要となり、また訂正の方式も法定されておりますので、ご注意ください。

遺留分制度が大きく変更されました!

これまで、事業承継の支障とされていた遺留分減殺請求権の制度が改正されました。

すなわち、以前では、会社の土地建物を所有していた父が亡くなり、遺言により長男が相続したとしても、何も財産を相続していない長女が遺留分減殺請求権を行使すると、会社の不動産が長男と長女の共有となってしまうとともに、その共有割合は財産の評価額により定まるため、分母・分子ともに極めて大きな数字になってしまい、権利関係が複雑になっていました。

今回の改正では、遺留分減殺請求権が金銭債権に変更され、先の例では、長女が長男に対して、遺留分減殺請求権を行使すると、直接金銭を請求できることになり、権利関係が整理されました。

そのため、現在のような複雑な共有関係が生じることも、会社財産の処分・行使に支障が生じることも少なくなりました。

また、直ちに金銭を支払うことができない場合には、裁判所に申立をすることで、相当の支払期限が与えられます。

その他改正点

配偶者居住権

配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、終身又は一定期間、配偶者に建物の使用を認めることを内容とする法定の権利(配偶者居住権)が新設されました。

現行制度では、配偶者が被相続人名義の自宅を相続した場合、自宅の価値が高いと、他の財産(たとえば預貯金)を全く相続できないケースがありました。

そこで、配偶者が自宅に居住する権利を認めつつ(配偶者は自宅そのものを相続するわけではないため、他の財産を相続する余地が生じます。)、他の相続人(たとえば子)が自宅の所有権を相続し、預貯金を両者がそれぞれ相続するということも可能になります。

ただし、常に発生するというわけではなく、遺産分割や遺言書によって定められる必要があります

特別寄与料

現行制度では、相続人以外の親族(例えば、夫が先死している場合の妻と夫の母との関係)が、被相続人(例でいうと夫の母)と同居して介護や看病をしたとしても、被相続人の遺産を相続することはできません。

今回の改正では、このような場合に、夫の母の死亡後、夫の妻が、他の相続人(たとえば、次男・三男等)に対して、自らの貢献度に応じた金銭の請求をすることができるようになりました(これを「特別寄与料」といいます。)

最後に

会議

配偶者居住権や特別寄与料といった新たな制度が制定されたおかげで、相続人間の不公平を解消する選択肢が増えたといえます。

しかし、その半面、遺言書を作成していない場合には、相続人間で様々な主張がなされ、紛争が複雑化、長期化する可能性が高くなると考えられます。

自筆証書での遺言作成も簡便になったことですし、また遺留分制度も改正されて利用しやすくなったことですし、万が一の際に備えて、遺言書のご作成を検討してみてはいかがでしょうか。

相続に関してお悩みの際も、お気軽にご相談ください。

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