未払い残業代

働き方改革で法改正がされるなどし、労働者の残業削減や残業代支払いに対する関心が高まっています。

このような社会情勢の中、残業代を残業代以外の名称で定額の手当として支払っている会社はよく見られます。

しかし、裁判所がそのような定額の手当を残業代として認めないケースは後を絶ちません。

今回は、平成30年に出た最高裁判例(日本ケミカル事件・最判平成30年7月19日労判1186号5頁)をもとに、定額残業代が有効になるための要件について解説します。

従来の要件

これまでにも最高裁は、残業代以外の名前の定額手当で残業代を支払っていた場合に、それによって残業代を支払っていたと認められるかどうかについて、少なくとも通常の賃金部分と残業代部分とが明確に区分されていること(明確区分性)が必要であるとしてきました。

従来の要件に対する批判と混乱

しかし、明確区分性という要件だけでは不十分であり、他にどのような要件を備えれば有効になるか分からないままでした。

実際、地裁や高裁の判決では判断内容にバラつきが見られ、様々な議論を呼んできました。

たとえば、明確区分性に加えて、労働基準法が定める金額に不足していた場合には差額を支払うということを合意している(清算合意がある)ことも要件となるとしている裁判例や、固定残業代の金額に対応する残業時間数が多いことを問題視する裁判例などありました。

このような中、平成30年に出された日本ケミカル事件の判決において、新たな判断枠組が提示されました。

日本ケミカル事件の事案の概要

日本ケミカル事件は、薬局に勤めていた労働者が、その薬局に対し、超過勤務があったのに時間外手当(残業代)が支払われていないなどとして未払いになっている時間外割増賃金等の支払いを求めたものです。

被告である会社(薬局)は業務手当という名称で固定残業代を支払っていました。

そして、雇用契約書や賃金規定、採用条件確認書には業務手当が時間外労働に対する対価である旨の記載があり、また、他の従業員に交付されていた採用条件通知書にも同様の記載がありました。

判決の概要

雇用契約書

最高裁が示した判断枠組は以下のようなものです。

「ある手当が残業代の支払いとして認められるかどうかは、以下のような事情を考慮して判断する。」

  1. 「雇用契約書にどう書かれているか」
  2. 「会社が労働者に対し、その手当についてどのような説明をしていたか」
  3. 「実際の残業時間数など、労働者の勤務状況」

本件では、概要、以下のような事情がありました。

  1. 契約書や賃金規定において、業務手当が時間外労働の対価として支払われるものであることが規定されていた
  2. 訴えを起こした労働者を含むすべての労働者に対して交付していた採用条件確認書においても、業務手当が時間外労働に対する対価として支払われるものであることが記載されており、業務手当が時間外労働の対価であることを説明していた
  3. 実際に支払われた業務手当の額から算定される時間外労働の時間数が、実際の時間外労働の時間数と大きくかけ離れてはいない

以上の事情から、最高裁は、会社が支払っていた業務手当は残業代の支払いに当たると認めました。

定額手当の支払いが残業代の支払いと認められないと思われるケース

日本ケミカル事件で示された判断を前提とすると、例えば以下のようなケースでは、定額の手当の支払いが残業代の支払いとして認められないことになると思われます。

こんな場合はご注意!

  • 「定額の手当が残業代として支払われるものであることが契約書等に一切書いていない」
  • 「契約書等において、「○○手当は残業代の趣旨も含む」としか書いておらず、具体的にいくらが固定残業代部分なのか不明である」
  • 「定額の手当が固定残業代であるということをこれまでに一度も説明してこなかったにもかかわらず、裁判になって初めてそのような説明をし始めた」
  • 「定額の手当で残業代を払っているという説明が合理的とは言えないほど、実際の残業時間数が過大」

最後に

最高裁によって新たな判断枠組が示されたことで、今後、固定残業代の有効性に対して疑問を持つ労働者が増える可能性があります。

定額残業代を支払っている会社の方は、それが残業代の支払いとして有効なものかどうかについて再確認すべきでしょう。

残業代として支払っている手当が有効なものかどうか等については、一度弁護士までご相談ください。

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