はじめに

弁護士荒木俊太

従業員が退職する際、「今までの未払残業代を支払ってほしい」と請求されるケースが増えています。

退職で人間関係から解放される分、従業員としても請求しやすいタイミングといえます。

未払残業代の請求権の時効は3年ですので、請求額が大きくなることは珍しくはありません。

また、未払残業代が請求されると、会社としては、金銭的な負担を負うのみならず、他の社員への波及や監督署調査の契機となるリスクもあります。

今回は、従業員から未払残業代を請求された場合の対応について解説します。

企業として対応すべきこと

1. 請求内容の確認

請求書

まずは、相手方の請求内容とその根拠を確認しましょう。

「時間外労働があるにも関わらず残業代を一切払っていなかった」というケースは論外ですが、会社として残業代を支払っている認識であったにも関わらず、追加の残業代を請求される、ということも珍しくありません。これには以下の理由が考えられます。

  1. 労働時間を適切に把握、管理できていなかった

    (たとえば、実際はタイムカード以上に働いていた等)

  2. 残業代の払い方が適切ではなかった

    (特に固定残業代制や管理監督者制度)

1 の場合は、会社が把握している労働時間と、従業員が主張する労働時間にズレが生じているはずです。

まずは、会社としてどのように労働時間を管理していたかを再確認し、労働者が主張するような長時間の残業が本当にあったのか、また、その残業の証拠(タイムカード、PCログ、入退室記録、業務メールやチャット等)はあるのか、を確認しましょう。

2 の場合は、会社の給与形態や残業代の支払い方が、法的に適切であるかを確認しましょう。

特に、固定残業代の支払いは、裁判例でも無効とされることも少なくありませんので、そもそもの制度設計を慎重に検討しておく必要があります(残業代も含めて支払っている、との主張では足りず、残業代とそれ以外が判別可能であること等が要求されます)。

また、管理監督者の手当を払っていないので残業代は払わなくてよいと考えている会社も少なくありませんが、労基法上の「管理監督者」に当たる要件は非常に厳しいため、多くの場合は残業代の未払と判断されてしまいます

2. 従業員との交渉

弁護士荒木

上記1の検討の結果、会社として未払い残業代は無いと考えるのであれば、要求を突っぱねるという判断もありえます。

他方で、労働時間の管理や残業代の払い方に疑念がある場合は、相手方と示談交渉をすることになります。

その際は、専門的な法的知識や交渉のテクニックが必要となります。また、他の労働者への波及を防ぐべく、「口外禁止条項」をつけたほうが良い場合もあるでしょう。

なお、話し合いで結論が出ない場合は、労働審判や裁判に移行することもありますが、その際は、遅延損害金付加金(会社への制裁として請求額と同額の金銭の支払が命じられる)が課されてしまう可能性もある点は要注意です。

3. 労基署への対応

労働者が労基署に通告している場合、労基署から会社に対して、労働時間の管理体制や残業代の支払い状況について、調査が入ることがあります。

要求される資料は遅滞なく提出しましょう。

また、場合によっては、会社の意見や補足説明の文書を提出したほうが好ましいケースもあります

仮に、行政指導の形で指導が入ってしまった場合は、適切かつ迅速な対応が必要になります。

調査や指導に従わない場合、罰則が課させることもあります

再発防止策

対策

労働時間の管理や残業代の支払い方法に不備がある場合は、改善が必要です。

労働時間の認識の齟齬は、勤怠管理の不備から生じます。

● 打刻と実労働の乖離がないか

● 管理職が部下の残業を適切に承認しているか

● 「サービス残業」や「持ち帰り残業」が慣例化していないか

等を適期的に確認しましょう。

また、そもそも労働時間の把握方法が確立していない場合は、タイムカード、勤怠管理簿等の導入を直ちに検討しましょう。

併せて、給与制度の見直しを行いましょう。

特に、固定残業代制や管理監督者制度を採用している会社は、それが適法に運用されているのか、を再確認することをお勧めします。

弁護士を入れるメリット

相手方の請求がそもそも妥当であるか、の検討ができます。

また、相手との交渉には専門的な法的知識や交渉のテクニックが必要になりますので、弁護士を入れることで相手方との柔軟な交渉や、紛争解決等に向けた示談書の作成が可能になります。

加えて、現在の労務管理や給与支払いの制度について、法的リスクを検討し、再発防止に役立てることもできます。

残業代を請求された場合、その後の対応次第で(会社で対応するか弁護士で対応するか、また、どの弁護士に依頼するか、等により)、労働者への支払額や、その後の紛争が防止できるかどうか、等が大きく変わってきます。

弊所には、労務関係の紛争に強い弁護士が多数在籍しておりますので、お困りの際はお気軽にご相談ください。

  • 荒木俊太弁護士
  • この記事を書いた弁護士

    荒木 俊太(あらき しゅんた)
    たくみ法律事務所 福岡オフィス所属
    佐賀県神崎郡出身。九州大学法学部、九州大学法科大学院を経て、弁護士登録。運送業者を始めとする複数の企業を顧問弁護士として支援し、労災、問題社員、誹謗中傷など、中小企業を取り巻く法律問題に幅広く関与。

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