はじめに

マタニティハラスメント(以下「マタハラ」)とは、妊娠・出産等あるいは育児休業・介護休業等を理由とする、解雇・雇止め等の不利益な扱いや嫌がらせを指します。

ハラスメント画像

近年、日本でもマタハラ防止に向けた法改正が相次ぎ、企業にはマタハラの防止措置や育児休業の取得促進が義務付けられました。

特に、2017年施行の改正男女雇用機会均等法・育児・介護休業法では「マタハラ防止措置の義務化」、2022年施行の改正育児・介護休業法では「育児休業制度の拡充」と「個別周知・意向確認義務」が追加され、中小企業にも具体的な対応が求められています

本記事では、

  • 「マタハラ」とは
  • 法改正のポイントと企業が守るべき義務
  • 中小企業が取り組みやすいマタハラ防止対策の具体例
  • 対策を行うメリットや課題

といった内容を、実際の事例やガイドラインを交えながらご紹介します。

1. 「マタハラ」とは?

マタニティハラスメントの定義と二つの類型

マタハラとは、妊娠・出産等あるいは育児休業・介護休業等を理由とする、解雇・雇止め等の不利益な扱いや嫌がらせの総称です。

具体的には、以下の二つの類型が代表的なものとされています。

1.制度利用に対する嫌がらせ
  • 産前産後休業や育児休業、時短勤務などの制度を利用したいと申し出た社員に対し、「休むなら辞めてもらう」「昇進させない」などと圧力をかけるケース
  • 「男性の育休をとるなんてありえない」等と制度の利用を諦めさせるような言動を行うケース
2.個人の状態に対する嫌がらせ
  • 妊娠中のつわりや体調不良、産後の育児負担などに対して「いつ休むかわからないから仕事はさせない」「使えない」等の発言をするケース
  • 女性社員が妊娠を報告した直後に、不当な配置転換や降格・解雇を行うケース

こうした行為は、上司だけでなく同僚や部下など、職場の誰が行ってもハラスメントに該当し得ます。

また、派遣社員やパート・アルバイトの方に対しても同様に禁止されている点に注意が必要です。

2. なぜ法改正が行われたのか?


2017年施行:マタハラ防止措置の義務化

2017年1月1日施行の改正男女雇用機会均等法・育児・介護休業法により、企業には、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを防止する措置を講じることが義務化されました。

もともと事業主による不利益取扱い(解雇や降格など)は禁止されていましたが、2017年改正では上司や同僚による嫌がらせも対象となり、会社として相談体制の整備や規程の整備など、職場全体でハラスメントを防ぐ仕組みをつくる責任が明確化されています

2022年施行:育児休業の拡充と個別周知義務

2022年4月から順次施行された改正育児・介護休業法では、育児休業制度が拡充されたことが大きなポイントです。

特に、以下の二点が義務付けられました。

  • 育児休業を取りやすい職場環境(研修や相談窓口の設置、社内事例の周知など)の整備
  • 妊娠・出産(本人または配偶者)の申出があった社員へ、個別に育休制度を案内し、取得意向を確認する義務

男女ともに仕事と育児を両立できるようにすることが求められています。

3. マタハラ防止策

(1)周知啓発と研修

  • 全社員に対する研修や周知
    • 「マタハラとは何か」「どんな行為が禁止されているか」を分かりやすい例で共有
    • 就業規則やハラスメント防止規程などを整備し、「違反があれば懲戒処分もあり得る」旨を明確に伝える
  • 管理職やリーダー層への重点教育
    • 妊娠報告や育休取得の申し出を受けたときの適切な対応をケーススタディで学ぶ
    • どのような発言が法的リスクを伴うかを、具体的な裁判例などで理解させる
    • 部下が安心して制度を利用できるよう、チーム内の業務分担や引き継ぎ計画も管理職が主導で進める

(2)相談窓口設置と相談者のプライバシー保護

  • 相談窓口を設置し、労働者に周知
    • 社内担当者(人事・総務部門など)、社外相談先(弁護士・社労士の外部窓口)の設置
    • 相談窓口の担当者が適切に対応できるよう、事実関係の確認、加害者への指導・処分、被害者のメンタルケアなど、一連の対応フローを社内マニュアルに定めておく
  • プライバシー保護のルール化
    • 相談内容は必要最小限の関係者のみで扱い、情報が漏れないよう記録・管理
    • 「相談したことを理由に不利益を受けない」旨を就業規則や研修で周知徹底

(3)育児休業を取得しやすい職場づくり

  • 育児休業や時短勤務への前向きな姿勢をトップが示す
    • 社長や役員から「社員の出産・育児を応援する」「育休は男性も積極的に取ろう」というメッセージを出す
    • 「男性育休」が難しいと思われがちな日本の風潮を打破するには、管理職の理解と後押しが重要
  • 個別周知・意向確認の実施
    • 妊娠や出産が判明した社員には、育休制度や給付金・社会保険料免除などの情報を面談や書面で周知
    • 「取得してほしくない」と圧力をかけることは違法リスクが高いことを認識し、あくまで希望を確認するスタンスを徹底
  • 勤務形態の柔軟化
    • 育休復帰後の時短勤務や在宅勤務など、各従業員の家庭に合った働き方を可能にする制度を検討
    • 中小企業の場合、全員一律のフルタイム勤務だけでなく、シフト調整や週数日の在宅勤務など柔軟性を持たせやすい強みも

4. マタハラ防止のメリット


1.訴訟リスク・行政指導リスクの回避
  • もしマタハラが発生してしまうと、違反企業として是正勧告や企業名の公表、最悪の場合は損害賠償を負うリスク
  • 早めに対策することでリスクヘッジにつながる
2.人材の定着とモチベーション向上
  • 妊娠・出産を機に退職されると、企業は大きな戦力を失い、採用コストもかさんでしまう
  • 「育児をしながらでも働き続けられる会社だ」という安心感が、社員のエンゲージメントを高める
3.採用力・企業イメージの向上
  • マタハラ防止や両立支援に積極的な企業は「子育てに理解がある会社」として評価が高まる
  • 厚生労働省の「くるみん認定」を取得すると、女性や若手の採用面で優位に立ちやすい、融資面でのメリットが期待できる事例も
4.組織の活性化・生産性アップ
  • 育児中の社員が復帰後もスキルやノウハウを活かして活躍するため、人材流出が防げる
  • 休業中の人の業務を周囲でフォローする文化が定着すれば、チームワークが強化される側面も

5. 中小企業特有の課題と対策

(1)人員不足で休業をカバーできない
  • 助成金の活用
  • 「両立支援等助成金(育児休業等支援コース)」などを利用し、新規雇用や派遣社員を導入
  • 業務の見える化・マルチタスク化
  • 普段から業務手順を整理し、誰かが休んでもフォローできる体制を築く
(2)担当者や社内の法令知識が十分でない
  • 行政・専門家のサポート
    • 労働局が開催する無料セミナーや、厚労省のパンフレットを活用
    • 必要に応じて社労士・弁護士など専門家に依頼して就業規則や研修制度を整備する
(3)「育休を取るなんて非常識」などの考え方
  • トップダウンの意識改革
    • 経営者や幹部が「男性も育児をする時代」「お互い様でフォローしよう」という方針を繰り返し発信
    • 実際に育休を取った先輩社員の事例紹介、表彰制度などで”ロールモデル”を社内に見せる
(4)コストがかかりそうで二の足を踏んでしまう
  • 長期的メリットの視点
    • 社員定着や生産性向上、採用力アップなど、中長期で見ればむしろコスト削減につながる
    • 各種助成金や税制優遇(くるみん認定など)を活用し、費用面のハードルを下げる

6. 実際に発生した場合の対応

1. 初動
  • 会社のハラスメント相談窓口等から報告を受けた場合、すみやかに外部専門家等に現状を伝え、対策を相談する
2. 調査等の開始
  • すみやかに調査を開始し、懲戒処分について検討したり、再発防止策を講じる
  • 調査をする際には、被害者、加害者、第三者から事情を聴取し、証拠があれば確保する等して、今後の対応に必要な措置を講じる
3. 弁護士等専門家への相談
  • 早めに専門家に相談することで、会社としてのリスクヘッジや被害者救済策を具体的に検討できる

7. まとめ


マタハラの防止は、法律上の義務ですが、社員が安心して妊娠・出産・育児と仕事を両立できる仕組みを整える絶好の機会でもあります。

制度さえ整えれば終わりというわけではなく、正しい知識を社内に浸透させ、誰もが安心して気持ちよく働ける職場環境を整えることが重要です。

職場でマタハラ等のハラスメントが起きてしまった場合には、できるだけ早く弊所にご相談ください。

具体的な調査方法や懲戒処分をすべきか否か、その程度、今後の再発防止策など、具体的な解決方法をご提案させていただくとともに、迅速かつ的確に対処いたします

  • 吉原俊太郎弁護士
  • この記事を書いた弁護士

    吉原 俊太郎(よしはら しゅんたろう)
    たくみ法律事務所 福岡オフィス所属
    福岡県太宰府市出身。青山学院大学法学部卒業後、東京法務局に入局し、会社や不動産の登記手続に関与。法律問題のすべてに関わり解決させることができる弁護士業務に魅力を感じ、中央大学法科大学院に入学。2012年に弁護士登録を行い、佐賀の法律事務所、同事務所福岡オフィスの所長を経て、2021年7月、たくみ法律事務所に入所。「依頼者の皆様にとって最良の結果を得るために常に全力を尽くすこと」が弁護士活動のモットー。

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