弁護士吉原

2016年10月、大手広告代理店「電通」に勤めていた若手社員が自殺した件について、労災認定が下りたとして、全国的なニュースになったことは皆さんも記憶に新しいことでしょう。

この事件をきっかけに、労働者の長時間労働が現在、社会問題となっています

しかし、労働者の長時間労働の問題は今に始まったことでは、ありません。

20年以上前にも、同じく大手広告代理店「電通」で過労が原因で社員が自殺するという事件がありました。

悲しいことですが、歴史は繰り返されたのです。(※ちなみに、以前の電通事件も今回の電通事件も労働者側の代理人弁護士は同じ方です。この点でも歴史は繰り返されています。)

長時間労働の新たな対策

このように、何年も前から長時間労働は問題視され、国はそれに対する対策を講じてきました。

そして、今回、新たな対策が講じられました。

それが、「プレミアムフライデー」です。

プレミアムフライデーとは

毎月最後の金曜日は、午後3時に仕事を切り上げて、その後の時間をプライベートな時間として活用しようという取り組みです。

この取り組みは、経済産業省や経済界など官民連携で設立された「プレミアムフライデー推進協議会」が、2017年の2月24日から実施することを決定したものです。

では、この取り組みが、長時間労働の問題が再燃している現在においてどのような影響があるのでしょうか?

今回は、この取り組みが労働者にもたらすメリット・デメリットについて考えたいと思います。

プレミアムフライデーによるメリット

イメージ図

まずは、毎月末の金曜日は午後3時に仕事を終えることができることになりますので、当然労働時間の短縮に繋がります。

次に、昔から言われるとおり、金曜日といえば、華金です。

つまり、金曜日に友人、同僚や家族等で買い物や食事に出掛けることが多いと思います。

そうすれば、自然と個人の消費が増え、経済の活性化にも繋がることが考えられます。

「プレミアムフライデー推進協議会」のホームページにも、この取り組みを導入した意義として、①充実感・満足感を実感できる生活スタイルの変革への機会の創出②地域等のコミュニティ機能強化や一体感の醸成③買い物や家族との外食、観光等といった消費意欲の喚起が掲げられています。

実際、福岡の4百貨店(岩田屋・三越・博多大丸・博多阪急)は全国に先駆けて顧客の取り込みで協業することを発表しています。

また、航空会社も割引プランを発表しています。

プレミアムフライデーのデメリット

労働者にかえって負担がかかる?

労働

他方で、この取り組みを導入することでのデメリットとして何が考えられるでしょうか。

まず、一番のデメリットは、仮にこの制度を会社が導入したとしても、それに伴い、各労働者の業務量を減らす義務はありませんので、業務量は変わらず、労働時間だけが減るという状態になり、どこかに必ずしわ寄せがくるという点です。

会社にもよりますが、月末が非常に忙しい会社も多くあります。

そのような会社でプレミアムフライデーを導入すると、毎月末の金曜日に早く帰るために、その週の月曜日~木曜日は毎日残業しなければならないといった本末転倒な結果に陥ることも考えられます。

かえって、労働者に負担をかける可能性があるのです。

「持ち帰り残業」の盲点

次に、この取り組みの導入により、勤勉な労働者ほど、自宅に仕事を持ち帰り、週末に自宅で仕事をするという状況になることも考えられます。

そうなれば、会社の管理していない労働時間が生じることになり、適正な残業代が支払われないという事態も想定されます。

就業規則の変更が必要

さらに、この取り組みを導入した場合、就業規則の変更が必要になります。

労働契約法9条によれば、一方的な就業規則の不利益変更は、原則としてできません。【労働契約法9条】使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。(以下省略)

では、プレミアムフライデーの導入は、不利益変更にあたるのでしょうか?

たしかに、労働時間が減るのだから、労働者にとっては不利益変更ではないと考えられます。

しかし、労働時間が減るということは、労働に対する対価である賃金も減るということになり、そう考えれば、不利益ではないかと考えることもできます。

裁判所の考え方としては、賃金や退職金など労働者にとって重要な権利については、その変更内容が高度の必要性に基づいた合理的なものであることを求めています。

つまり、プレミアムフライデーの導入により賃金引き下げは、不利益変更にあたる可能性が高いと考えられます。

そうなれば、プレミアムフライデーを導入するために就業規則を変更する場合、労働者の合意が必要になり、会社としては、非常に大変な作業になると思われます。

最後に

はじめに述べたとおり、電通事件のような長時間労働による過労自殺など、労働者の長時間労働は昔から日本で大きな社会的問題となっています。

その問題がなかなか解決しない現状で、プライベートな時間を確保するという視点からのプレミアムフライデーという新たな取り組みは、それ自体大きな意義があると思います。

しかし、デメリットで述べたとおり、いくつかの課題があることも事実です。

この取り組みの導入により、メリットで述べたような理想的な社会が現実のものとして実現するためには、会社による労働者の労働時間の適切な管理がより重要になってくるでしょう。

皆様の会社でも、プレミアムフライデー制度の導入を検討される場合は、就業規則や労働時間管理について一度ご相談されることをお勧めいたします。

お問い合わせはこちら

企業側・使用者側専門の弁護士にお任せ下さい新規予約専用ダイヤル24時間受付中!メールでの相談予約