福岡の弁護士が解説!下請代金支払遅延等防止法(下請法)とは

下請代金支払遅延等防止法(下請法)とは

弁護士荒木俊太

「下請法」とはどのような法律かご存知でしょうか?

「名前は知っているけど、内容までは詳しく知らない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

下請法は、「会社間の規模や交渉力の格差を原因として生じうる不平等・不当要求等から、下請会社を守るための法律」です。

具体的には、下請法は、元請会社に4つの義務と11の禁止事項を課しています。

この記事では、「下請法とはどのような法律か」「下請法に違反するとどうなるか」「下請法に違反しないためにはどうすればいいか」を解説いたします。

下請法が適用される場面

下請法は、元請会社と下請会社の間に一定程度の資本力の差がある場合に適用されます。

業種によっても異なりますが、たとえば製造業の下請においては、

  1. 資本金3億円超の企業vs資本金3億円以下企業又は個人
  2. 資本金1千万円超3億円以下の企業vs資本金1千万円以下の企業または個人

の委託契約が適用対象になります。

下請法の規制の概要

元請会社の義務

下請法は、元請会社に対して、

  1. 発注の際に必要事項を記入した書面を交付する義務
  2. 支払代金の支払期日を定める義務
  3. 下請取引の内容を記載した書類を作成して保存する義務
  4. 支払いが遅延した時は遅延利息を支払う義務

を課しています。

これは、下請の内容や取引状況を明確化することで、元請会社が不当な利益を得る契約・取引になるのを防ぐための規制です。

また、支払期日や遅延利息を明確に決めさせることで、期日通りに下請代金が支払われるのを確保しようとしているのです。

元請会社の禁止事項

下請法は11の禁止事項を設けており、このうち、元請会社が知らないうちに違反状態になりやすいものを2つご紹介します。

買いたたき

取引開始時は適正な価格で設定していたとしても、その後の原材料の高騰等により、不適切な価格になることもあります。

下請法は、取引開始後に下請価格が不適切になった場合は、元請会社に交渉に応じるなどの対応を義務付けています

しかし、継続的に取引をしている場合、企業としては深く考えずに従前の価格に据え置くことをやってしまいがちです。

下請会社側も、元請会社に迷惑をかけられないとの感情から、不適切な価格となっていることを言ってこない可能性があります。

そうすると、今までは大丈夫だった取引が、いきなり下請法違反だとして指導の対象になったり、違反金(課徴金)の支払いを命じられてしまいます。

原材料の対価の早期決裁

元請会社が原材料を提供し、下請会社がこれを用いて商品を作り、元請会社に納品することはよくあるパターンかと思います。

この際、原材料の対価を、商品の対価(下請代金)より早い時期に支払わせてはいけません

先に元請会社に原材料の対価を回収させることは、下請会社に下請代金の回収を確保させようとする観点から妥当ではないからです。

当然、原材料の支給の方が、商品の納品よりも早いので、意識せずに両代金の支払時期を設定すると、原材料の対価の回収の方が先になり、思いがけず下請法違反とされてしまいます。

下請法の執行が強化される?

昨今の新型コロナウイルの蔓延や、ウクライナ情勢の悪化により、様々な業種で原材料価格の高騰が進んでいます

これによって、従来の販売価格を維持して利益を確保したい元請会社が、下請会社に対して不当な要求をする事態が増え、また、元請会社による買いたたきが横行しています。

それに伴い、2022年の1月に、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(いわゆる「下請法ガイドライン」)が改定されました。

ガイドラインの改正のポイントは2つあります。

下請会社からの価格引上げの求めに対する、親会社の回答義務を課したこと

改正前は、「下請業者が単価の引き上げを求めたにもかかわらず、一方的に従来通りの単価を据え置くこと」が買いたたきに当たるとされていました。

これが、改正後は、「下請業者が単価の引き上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で下請業者に回答することなく、一方的に従来通りの単価を据え置くこと」となっています。

元請会社が回答しないことが、買いたたきの要件に加えられたのです。

一見、買いたたきに当たる場面が限定され、元請業者に有利になったようにも思えますが、実際には逆です。

元請業者は、この回答をしないと、買いたたきをしているのではないかと推定されてしまうので、実際上はこの回答が強制されることになったのです。

多少の文言が付け加わっただけのように見えますが、現実に企業に与える影響は甚大です。

改正により、元請業者は、下請業者から単価引き上げを求められた際には、必ず価格転嫁しない理由を付した書面及び電子メールを作成しなければなりません

これは書面やメールの作成という事務手続の増加につながります。

また、合理的理由を残る形で説明することになるので、下請業者からその説明の不合理な点を付かれやすくなります。

取引価格の再検討の際、親会社に明示的な協議を行う義務を課したこと

これにより、元請業者は、形式的に話し合いの場を設けるのでは足りず、「明示的に協議すること」まで要求されることになります。

「明示的に協議」が不明確で、何をどこまでどのような方法で協議すればこれをクリアしたと言えるのか分かりずらくなっており、萎縮効果が生まれています。

つまり、元請会社は、「明示的に協議」がなされておらず下請法違反だとの判断を受けたくないために、必要以上に慎重に協議を進めざるを得なくなります

改正の目的もここにあるのではないかと思いますが、その萎縮効果により下請会社は十分な協議の機会を得ることができる一方で、元請会社は余計な手間を負わせられる恐れがあります。

下請法に違反するとどうなる?

下請法に違反が発覚する契機としては、公正取引委員会もしくは中小企業庁による書面調査、下請業者からの申告が多いです。

下請法違反が疑われた場合、当局が立入り検査等を行い、事実関係を調査します。

下請法違反とされた場合、その態様が悪質・重大であれば「勧告(公表)」がなされますが、大半は状況改善や再発防止の「指導」にとどまることが多いです。

なお、勧告に従わない場合は、排除措置命令課徴金(違反金)納付命令などのより重い制裁が課されます。

下請法に違反しないためのポイント

悩み

下請法に違反しないためには、まずは何よりも、下請法の適用範囲になっている取引の状況把握が必要です。

下請法の適用対象か否かが分からなければ、注意のしようがありませんので、まずは会社が行っている取引のうち、下請法の適用対象になる取引がどれかを判断する必要があります。

そのうえで、実際に取引に携わる部署・人材との間で、下請法の基本的知識を共有しなければなりません。

取引の現場は流動的なため、とっさの判断が求められたときに現場で対応する必要があります。

そのためには、指示を出す立場の人間のみならず、現場の人間が下請法をきちんと理解しておかなければなりません

また、今までは問題なく進んできた取引についても、社会情勢が目まぐるしく変化している昨今においては、原材料の高騰などで不公正な下請代金となってしまっていないかを再確認する必要があります。

セカンド顧問について

お問い合わせはこちら

企業側・使用者側専門の弁護士にお任せ下さい新規予約専用ダイヤル24時間受付中!メールでの相談予約


  • Facebook
  • Hatena
  • twitter
  • Google+
PAGETOP
お問い合わせ