雇入れのとき従業員に明示が必要な労働条件と明示が不要な労働条件とは?
従業員を雇い入れるとき、会社は、賃金や労働時間といった重要な労働条件を必ず明示しなければなりません。
もっとも、ありとあらゆる労働条件を伝えなければならないわけではなく、明示しなければならない事項は法律により定められています。
また、それについて定めを置く場合には明示する必要があるが、定めを置かない場合にはあえて明示しなくてもよいとされている事項もあります。
明示はいつ行う?
労働条件を明示すべき時期は労働契約の締結のときです。
期間の定めのある労働契約を更新するときには更新のときにも明示しなければなりません。
では、労働者の募集時点において労働条件の明示は行う必要があるのでしょうか?
労働基準法の定めは労働契約の締結や更新のときに労働条件の明示を義務付けているだけで、募集の際には必要ないとされています。
しかし、職業安定法において労働者の募集や求人申込みの際には業務内容や契約期間などの労働条件を書面の交付によって明示しなければならないとされています。
派遣契約の場合
派遣契約の場合に労働条件の明示義務を負うのは、派遣先ではなく派遣元とされています。
派遣元の使用者は、賃金や就業場所はもちろん、自己が労働基準法に基づく義務を負わない労働時間、休憩、休日などについても労働条件を明示する義務を負います。
絶対的明示事項と相対的明示事項
絶対的明示事項
労働契約の締結に際し、労働者に対して必ず明示しなければならない事項を「絶対的明示事項」といいます。
絶対的明示事項とされているのは次の事項です。
- 労働契約の期間に関する事項
- 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項(期間の定めのある労働契約であって更新する場合がある場合に限られます)
- 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
- 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合における就業時転換に関する事項
- 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項(退職手当や臨時に支払われる賃金等は除かれます)
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
絶対的明示事項は、「昇給に関する事項」を除いて、書面の交付により明示しなければなりません。
ただし、労働者が希望した場合に限り、次の方法で明示することが可能とされています。
- ファクシミリを利用してする送信の方法
- 電子メール等の送信の方法(ただし、労働者が記録を出力することにより書面を作成することができるものに限られます)
相対的明示事項
定めを置く場合には必ず明示しなければならないが、定めを置かない場合にはあえて明示しなくてもいいとされている事項もあります。
これを、「相対的明示事項」といいます。
相対的明示事項の典型例は、退職手当に関する事項です。
退職金制度を導入するときには、それが適用される労働者の範囲、決定方法、支払いの時期などを必ず明示する必要がありますが、退職金手当を導入しないときには「退職金手当は導入しない」ということをわざわざ明示する必要はありません。
当然ですが、使用者は、絶対的明示事項及び相対的明示事項により労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならないとされています。