IT化が進んでいない日本の裁判

弁護士神田

5月17日の日経新聞に、
裁判、デジタル化へ 最高裁、争点整理をネット上で
という見出しの記事が掲載されました。

裁判手続等のIT化は、内閣総理大臣等を中心とする未来投資会議において、2017年及び2018年の未来投資戦略で掲げられた目標の一つであり、様々な行政手続のデジタル化(「デジタル・ガバメントの実現」)の一貫とされています。

日本の裁判手続のIT化は、他の国と比べても大きく遅れており、シンガポールや韓国等ではIT化された裁判手続が進んでいます。

また、IT化に向けた具体的な目標としては、2017年10月公表時24位だった世界銀行のビジネス環境ランキングにおいて、日本が先進国中3位以内に入ることが目標とされています。

「世界ビジネス環境ランキング」とは、世界銀行が、世界190か国を対象とし、事業活動規制に係る以下の10分野を選定し、順位付けしたもので、毎年発表されています。

今回は、裁判のIT化が実現したら何がどう変わるのかご説明したいと思います。

具体的なIT化の内容―「3つのe」の実現―

e提出

IT

e提出(e-Filing)とは、紙媒体の裁判書類を裁判所に持参・郵送等する現行の取扱いに代えて、24時間365日利用可能な、電子情報によるオンライン提出へ極力移行し、一本化していく(訴訟記録について紙媒体を併存させない)こととされています。

現在の制度では、当事者間で合意をした上で事実上やりとりをしたり、データを保存したUSBを裁判所に持参したりする場合以外、原則として印刷した書面、証拠の写しを郵送・持参したり、FAXしたりして提出する必要があります。

そのため、書類が大量になると、印刷や郵送に時間を要したり、費用が増えてしまったりしています。

現在の制度のうち、次の手続への影響が考えられます。

訴状提出

原告側が、訴状と証拠説明書、証拠を、裁判所+被告の人数分印刷し、裁判所に郵送又は持参する必要があります。

訴状や判決書の送達

提出された訴状や証拠を、裁判所から各被告の送達先へ郵送しています。

答弁書その他準備書面等のやり取り:FAXでのやり取りが認められています。当事者間では、相手方が同意すればメールでのやりとりも考えられますが、少なくとも裁判所にはFAX送信が必要になります。

e事件管理

e事件管理(e-Case Management)とは、裁判所が管理する事件記録や事件情報につき、訴訟当事者本人及び訴訟代理人の双方が、随時かつ容易に、訴状、答弁書その他の準備書面や証拠等の電子情報にオンラインでアクセスすることが可能となり、期日の進捗状況等も確認できる仕組みが構築されることとされています。

これによって、裁判手続の透明性も高まるし、当事者本人や代理人が紙媒体の訴訟記録を自ら持参・保管等する負担から解放される効果も期待できます。

なお、訴訟記録である電子情報にオンラインで直接アクセスできるのは、訴訟当事者本人とその代理人又は関係者に限るのが相当と考えられています。

それ以外の国民一般に広くオンラインでの閲覧等を認めることの当否は、訴訟記録の閲覧・謄写制度との関係も含め、今後、丁寧に検討していく必要があると考えられます(裁判の公開と、当事者のプライバシー等の調整が必要になるでしょう。)。

現在の制度のうち、次の手続への影響が考えられます。

訴状受付・審査・補正

裁判所に訴状を提出した後、印紙や郵券の計算に誤りはないか、その他訴状の形式的な内容について、チェックが行われます。

第1回口頭弁論期日の調整・指定

事前に電話若しくはFAXで、または公開の法廷にて、双方当事者・代理人の日程調整が行われます。ウェブ上で予定を見ながら調整できれば、日程調整もスムーズになるかもしれません。

e法廷

e法廷(e-Court)とは、当事者等の裁判所への出頭の時間的・経済的負担を軽減するため、また、期日にメリハリを付けて審理の充実度を高めるため、民事訴訟手続の全体を通じて、当事者の一方又は双方によるテレビ会議やウェブ会議の活用を大幅に拡大することとされます。

現在の制度のうち、次の手続への影響が考えられます。近い将来、法廷への出頭コスト(時間的・費用的)が縮減されるかもしれません。

第1回口頭弁論期日

公開の法廷で実施されています。

争点整理手続(弁論準備手続)

一方当事者は電話会議で参加することもできますが、他方は裁判所に出頭する必要があります。

人証調べ期日

例外を除き、当事者双方と両代理人弁護士が裁判所に出頭して実施されています。

判決言渡し:公開の法廷で実施されています。

IT化に向けた課題

ただ、裁判のIT化も良いことばかりではありません。

次のような問題点も指摘されています

本人訴訟(弁護士が代理人に就いていない事件)の支援

ウェブ上の利用システム・環境構築

そもそも、裁判手続をIT化しても、自宅や身近にITの設備のない方は、そのような手続を利用することができません。

そのため、最寄りの行政施設等から裁判に参加できるような整備も考えられます。

非弁活動の抑止

基本的に、他人の裁判手続の代理は弁護士(及び簡裁管轄事件における認定を受けた司法書士等)にしかできません。

しかし、実際に裁判所に出廷せず、webで裁判手続に参加することを認めると、裁判所の見えないところで、弁護士等以外の者が本人に指示をしたり、書面を作成したりしてしまうことが考えられます。

極論を言えば、webでの証人尋問中に、パソコンの裏で弁護士等以外の者が指示を出したりすることが考えられます。

情報セキュリティ

改ざん・漏洩防止、セキュリティ水準

全ての裁判記録をweb上で管理することになると、情報の漏洩や改ざん等が危惧されます。

また、サイバー攻撃への対応等についても整備が求められます。

他にも、web会議の状況をスクリーンショットで撮影して流出させてしまったり、録音・録画等への対応も必要になります。

民間サービスとの連携、クラウド化

現在、裁判手続専用のソフトはありません。

そのため、IT化に向けた模擬裁判等も民間のツールを利用して試行しているような状況であり、裁判所・弁護士・本人それぞれにとって使いやすいソフトの開発が望まれます。

弁護士神田 昂一

福岡県田川郡出身。
予防法務、債権回収、コンプライアンス体制構築など、企業活動に関する様々な問題に迅速に対応いたします。
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