はじめに

弁護士神田昂一

神田です。

昨年12月20日、政府より、非正規従業員の待遇改善を実現するために、「同一労働同一賃金ガイドライン案」が公表されました。

安倍首相は、平成28年9月27日、首相官邸において開催された、第一回「働き方改革実現会議」において、「『働き方改革』のポイントは、働く方に、より良い将来の展望を持っていただくことであります。

同一労働同一賃金を実現し、正規と非正規の労働者の格差を埋め、若者が将来に明るい希望が持てるようにしなければなりません。」と発言しており(首相官邸HP参照)、今回、これを受けて公表されたガイドライン案を見ても、政府の「同一労働同一賃金」の実現に対する関心の高さがうかがえます

企業にどのような影響がある?

そもそも、「同一労働同一賃金ガイドライン案」の公表により、企業にどのような影響があるのか考えてみましょう。

まず、労働契約法第20条には、次のように規定されています。

労働契約法第20条

有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

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要するに、企業は、無期雇用の正社員と有期雇用の契約社員との間で、労働条件に「不合理と認められる」相違を定めてはならないと規定されており、同様の規定は、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)8条にも規定されています。

そして、企業の定める労働条件が、上記規定に違反した場合、そのような規定に基づく取扱いは不法行為の違法性を備えるものとして、過去の差額賃金相当額(逸失利益)や慰謝料等の請求が認められることになります。

今回公表されたガイドライン案は、この労働契約法第20条やパートタイム労働法8条等の解釈及び今後の法改正に影響を与えることが予想されます。

同一労働同一賃金ガイドライン案の概要

では、実際に、ガイドライン案の概要を見てみましょう。

ガイドライン案には、給与・手当・福利厚生等、項目ごとの基本的な考え方とともに、典型的に問題となる事例、問題とならない事例の具体例が示されています。(参考:厚労省HP[同一労働同一賃金ガイドライン案])

(1)目的

ガイドライン案

本ガイドライン案は、正規か非正規かという雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保し、同一労働同一賃金の実現に向けて策定するものである。

同一労働同一賃金は、いわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものである

(2)有期雇用労働者及びパートタイム労働者との関係(抜粋)

※番号はガイドライン中のもの。

ア 基本給

①【職業経験・能力に応じて支給する場合】

ガイドライン案

基本給について、労働者の職業経験・能力に応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の職業経験・能力を蓄積している有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、職業経験・能力に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。

また、蓄積している職業経験・能力に一定の違いがある場合においては、その相違に応じた支給をしなければならない。

問題ない例
職業能力向上のため特殊なキャリアコースを設定しているA社において、無期雇用フルタイム労働者Xはこれを選択し、職業能力を習得したのに対し、パートタイム労働者Yは職業能力を習得していないため、Xには職業能力に応じた支給を行い、Yについては行っていない。

問題となる例
無期雇用フルタイム労働者Xが、有期雇用労働者Yよりも多くの職業経験を有することを理由として(なお、Xの職業経験は、現在のXの業務との関連性はない。)、Xに対して、Yよりも多額の支給をした。

②【業績・成果に応じて支給する場合】
ガイドライン案

基本給について、労働者の業績・成果に応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の業績・成果を出している有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、業績・成果に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。

また、業績・成果に一定の違いがある場合においては、その相違に応じた支給をしなければならない。

問題ない例

  • フルタイム労働者の半分の勤務時間のパートタイム労働者Xに対し、無期雇用フルタイム労働者に設定されている販売目標の半分の数値に達した場合には、無期雇用フルタイム労働者が販売目標を達成した場合の半分の支給をした。
  • 無期雇用フルタイム労働者Xは、パートタイム労働者Yと同様の仕事に従事しているが、Xは生産効率や品質の目標に対する責任を負っており、目標未達の場合処遇上のペナルティが課され、他方Yはそのようなペナルティを課されていない場合に、Xに対して、そのペナルティとのバランスに応じた高額な基本給を支給している。

問題となる例
無期雇用フルタイム労働者Xが販売目標を達成した場合に行っている支給を、パートタイム労働者YがXと同等の目標を達成していないことを理由に行っていない。

③【勤続年数に応じて支給する場合】
ガイドライン案

基本給について、労働者の勤続年数に応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の勤続年数である有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、勤続年数に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。

また、勤続年数に一定の違いがある場合においては、その相違に応じた支給をしなければならない。

問題ない例
有期雇用労働者Xに対して、勤続年数について当初の雇用契約開始時から通算して勤続年数を評価した上で支給している。

問題となる例
有期雇用労働者であるXに対して、勤続年数について当初の雇用契約開始時から通算せず、その時点の雇用契約の期間のみの評価により支給している。

イ 手当

①【賞与】
ガイドライン案

賞与について、会社の業績等への貢献に応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の貢献である有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、貢献に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。

また、貢献に一定の違いがある場合においては、その相違に応じた支給をしなければならない。

問題ない例
無期雇用フルタイム労働者Xは、生産効率や品質の目標値に対する責任を負っており、目標未達の場合処遇上のペナルティが課され、他方無期雇用フルタイム労働者Y及び有期雇用労働者Zは、そのようなペナルティを課されていない場合に、Xには賞与を支給しているが、YやZには、ペナルティがないこととのバランスの範囲内で、賞与を支給していない。

問題となる例

  • 同一の会社業績への功績がある無期雇用フルタイム労働者Xと有期雇用労働者Yについて、前者にしか賞与を支給していない。
  • 無期雇用フルタイム労働者には、職務内容や貢献等にかかわらず全員に賞与を支給しているが、有期雇用労働者又はパートタイム労働者には支給していない。
⑤【精皆勤手当】
ガイドライン案

無期雇用フルタイム労働者と業務内容が同一の有期雇用労働者又はパートタイム労働者には同一の支給をしなければならない。

問題ない例
欠勤についてマイナス査定を行い、かつ、処遇反映を行っている無期雇用労働者Xには、一定の日数以上出勤した場合に精皆勤手当を支給するが、欠勤についてマイナス査定を行っていない有期雇用労働者Yには、マイナス査定を行っていないこととの見合いの範囲内で、精皆勤手当を支給していない。

⑥【時間外労働手当】
ガイドライン案

無期雇用フルタイム労働者の所定労働時間を超えて同一の時間外労働を行った有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、無期雇用フルタイム労働者の所定労働時間を超えた時間につき、同一の割増率等で支給しなければならない。

⑧【通勤手当・出張旅費】
ガイドライン案

有期雇用労働者又はパートタイム労働者にも、無期雇用フルタイム労働者と同一の支給をしなければならない。

問題ない例
採用圏を限定していない無期雇用フルタイム労働者については、通勤手当は交通費実費の全額を支給している。

他方、採用圏を近隣に限定しているパートタイム労働者が、その後、本人都合で圏外へ転居した場合には、圏内の公共交通機関の費用の限りにおいて、通勤手当の支給を行っている。

⑨【食事手当】
ガイドライン案

有期雇用労働者又はパートタイム労働者にも、無期雇用フルタイム労働者と同一の支給をしなければならない。

問題ない例
昼食時間帯を挟んで勤務している無期雇用フルタイム労働者Xに支給している食事手当を、午後2時から午後5時までの勤務時間のパートタイム労働者Yには支給していない。

問題となる例
無期雇用労働者Xには、高額の食事手当を支給し、有期雇用労働者Yには、低額の食事手当を支給している。

⑩【地域手当】
ガイドライン案

無期雇用フルタイム労働者と同一の地域で働く有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、同一の支給をしなければならない。

問題ない例
無期雇用フルタイム労働者Xには、全国一律の基本給体系である一方、転勤があることから、地域の物価等を勘案した地域手当を支給しているが、有期雇用労働者Yとパートタイム労働者Zには、それぞれの地域で採用、それぞれの地域での基本給を設定しており、その中で地域の物価が基本給に含まれているため、地域手当は支給していない。

問題となる例
無期雇用フルタイム労働者Xと有期雇用労働者Yとはいずれも全国一律の基本給体系であり、かつ、いずれも転勤があるにも関わらず、Yには地域手当を支給していない。

(3)派遣労働者との関係

ガイドライン案

派遣元事業者は、派遣先の労働者と職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情が同一である派遣労働者に対し、その派遣先の労働者と同一の賃金の支給、福利厚生、教育訓練の実施をしなければならない。

また、職務内容、職務内容。配置の変更、その他の事情に一定の違いがある場合において、その相違に応じた賃金の支給、福利厚生、教育訓練の実施をしなければならない。

実務に与える影響

その名の通り、まだガイドライン「案」であり、これに反したことのみをもって、労働条件が違法と判断されるという性質のものではありません(もちろん、現行法の解釈に違反する場合には違法と判断されることがあります。)。

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しかし、安倍首相は、平成28年12月20日の働き方改革実現会議において、同ガイドライン案を公表するにあたり、「ガイドライン案については、今日、御意見をお伺いし、さらに、関係者の御意見、改正法案についての国会審議を踏まえて、最終的に確定していき、改正法の施行日に施行いたします。今後、ガイドライン案を基に、法改正の議論を行っていく考えであります。」と発言しており、今後、議論・修正を経た上で、同ガイドラインが法改正の基礎となることが示唆されています。(参考:首相官邸HP[働き方改革実現会議])

実際の改正後、慌てないためにも、段階的に対策を講じるべきでしょう。

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弁護士神田 昂一
福岡県田川郡出身。 予防法務、債権回収、コンプライアンス体制構築など、企業活動に関する様々な問題に迅速に対応いたします。 ぜひお気軽にご相談ください。

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