場合によっては慰謝料を支払わなければなりません

事案の概要

先日、定年退職後継続制度により勤務を続ける従業員の業務内容に関し、注目すべき裁判例が出されました。

判決

トヨタ自動車で事務職として働いていた原告男性(63)は2013年に60歳の定年を迎える際に継続雇用制度である「パートナー」として5年間の再雇用を希望しました。

しかしトヨタは男性の能力が同職種として再雇用される基準に達していないとして1年雇用の「パートタイム」職(職務内容は清掃業務、給与は退職前の約1割)を提示し、男性は、業務内容が事務職ではなく社内の清掃業務であることを理由にトヨタの提示を拒否し再雇用はなされませんでした。

当時、トヨタは、定年退職後の継続雇用制度として①期間を最長5年とする「パートナー」としての継続雇用、②期間を1年とする「パートタイマー」としての継続雇用という2種類を設けており、①として継続雇用されるためにはトヨタが定めた各種選定基準を全て充足することが条件とされていました。

そこで、男性はトヨタに対し、①で再雇用された場合の事務職の従業員としての地位の確認と賃金の支払、慰謝料の支払を求めて提訴しました。

一審名古屋地裁はトヨタ側の主張を全面的に認め請求棄却判決を言い渡しましたが、控訴審の名古屋高裁は、再雇用に関するトヨタの条件提示が雇用契約上の債務不履行または不法行為であるとして損害賠償を認めました。

再雇用の際に会社が提示すべき職務内容及び賃金水準に関する具体的判断基準を示したものとして非常に注目すべき裁判例です。

改正高齢者雇用安定法の概要

向井智絵

急速な高齢化に対応し、高年齢者が年金受給年齢まで働き続けられる環境の整備を目的とし、平成24年に高年齢者雇用安定法が改正されました。

これにより、定年制度を設けている事業者は、Ⓐ定年年齢の引き上げ、Ⓑ継続雇用制度の導入、Ⓒ定年制度の廃止のいずれかの措置を講じなければなりません(9条1項)。

そしてこれに反し措置を講じない事業者に対しては厚生労働大臣は必要な助言や指導を経て勧告をし、それでも従わない場合には事業者名等を公表することになります(10条)。

多くの事業主は上記措置のうちⒷ継続雇用制度を採用しており、今回も同様です。

なお、平成24年改正前は、労使協定の規定により継続雇用制度の対象となる従業員を限定することができましたが、現在はこれも禁止され、全ての従業員を継続雇用制度の対象としなければなりません。

名古屋高裁が示した判断基準

名古屋高裁は、定年後にどのような労働条件を提示するかについては事業主に一定の裁量があり、定年前の業務内容と異なった業務内容を示すことは当然許されるとしたうえで、継続雇用後に定年前と全く別個の職種を示すためには、当該労働者が定年前の職種全般について適格性を欠くなど通常解雇を不当とする事情が必要である、という基準を示しました。

そして、本件で、男性をパートタイム労働者として雇用するにあたり、入社後定年時まで事務職として勤務してきた男性に対して清掃業務を指示したことは、継続雇用の実質を欠き通常解雇と新規採用に当たり違法であると判断し、トヨタに対し約127万円の損害賠償の支払いを命じました。

つまり、裁判所は、継続雇用制度の内容とその運用に関しては事業主にある程度の裁量が認められるものの、それはあくまでも高年齢従業員の雇用の安定確保という法の趣旨に合致したものでなくてはならないことを示し、かつ、全く異なる職務を指示するためには従前業務全般との関係で通常解雇できるほどの事情があることが必要であるという厳しい基準を明示したのです。

さいごに

本判決は、再雇用後の労働条件に関する会社の職務指示が雇用契約上の債務不履行または不法行為に該当し、損害賠償を命じられる場合があることを示したものとして大変注目すべき裁判例です。

退職前と異なる職種を指示する場合には「従前業務全般」との関係で「通常解雇」できるほどの事情が必要であるとされており、たとえば、今回のようにもともと事務職の従業員を継続雇用後それ以外の職種に配置するためには、事務職全般について解雇できるほどの状況でなければならないのです。

皆さんご存知のとおり、実務上、通常解雇の有効性自体も事業主側に厳しく判断されますので、全く異なる職種を指示する場合には、その有効性は厳しく判断されることになることが予想されます。

また、同種業務での再雇用であっても賃金は大幅に減額している場合が多いと思われますが、平成28年5月には東京地裁で、特段の事情がない限り正規社員と再雇用従業員とで格差を設けることは労働契約法20条に違反するとの判決が出ております。

高年齢者の再雇用については高年齢者雇用安定法だけでなく労働契約法による規制についても注意を払う必要があると言えるでしょう。

今回取り上げた定年後継続雇用問題に限らず労務問題についてお困りの担当者の方は遠慮なくご相談ください。

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弁護士向井 智絵
鹿児島県鹿児島市出身。 人事・労務管理の問題に注力しており、福岡県弁護士会では労働法制委員会に所属。 労働問題に関する最新の動向も把握しておりますので、是非一度ご相談ください。

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