最判平成28年7月8日

事案の概要

平成22年12月17日の夕方、福岡県京都郡にあるメッキ加工会社の営業部に所属する男性(事故当時34歳)が、業務を中断し、事業所外で行われていた研修生の歓送迎会に途中参加しました。

午後9時頃、歓送迎会が終了した後、被災男性は、車で事業場へ戻るついでに研修生を自宅へ送迎していました。

その道中、対向車線走行中の大型貨物自動車と衝突する交通事故に遭い、被災男性は頭部外傷により亡くなりました。

遺族の遺族補償給付等の請求に対し、行橋労働基準監督署長は、被災男性の死亡が「業務上の事由」に該当しないとして不支給の決定をしたため、遺族がその取消しを求めて訴訟を提起しました。

第一審、控訴審ともに、 ①本件歓送迎会が研修生との親睦を深めることを目的とした従業員有志による私的な会合であること及び②留学生の送迎は被災男性が任意に行ったこと等を理由に、「業務上の事由」に当たらないとして、遺族の訴えを退けました。

最高裁の判断

これに対して、最高裁は、以下の事実からすれば、交通事故の際、被災男性は依然として会社の支配下にあったといえるとして、被災男性の死亡が「業務上の事由」に該当することを肯定し、遺族の訴えを認めました。

  1. 社長権限を代行する部長から、「今日が最後だから」と本件歓送迎会への参加を強く打診されたのに対し、翌日に迫った書面作成期限が延期されなかったこと
  2. 当該歓送迎会は、従前、部長の発案で行われ、従業員全員が参加し、費用が会社の福利厚生費から賄われ、研修生の自宅と歓送迎会会場との間の送迎は、会社所有の自動車により行われてきたこと
  3. もともと研修生の送迎は部長により行われる予定であり、被災男性の戻る工場と留学生の自宅との位置関係からして、歓送迎会会場から工場への経路を大きく逸脱しないこと

裁判所の判断傾向の変化

従来は、歓送迎会や懇親会後の交通事故等につき、あくまで私的な会合であるとして労災の適用が否定されやすい傾向にありました。

しかし、今回の最高裁判決では、

  1. 歓送迎会に関する上司とのやりとり、
  2. 従業員の費用負担の有無や会社所有の自動車の使用等、

事実関係を具体的に評価して、実質的に、従業員が事業主の支配下にあるといえるかが判断されています。

従業員が加害者になった場合の会社の責任

今回は問題になっていませんが、仮に、同様の事案で、従業員が起こした交通事故で相手方が怪我を負った場合、会社の使用者責任が問われる可能性があります(民法715条1項)。

すなわち、従業員が、会社の「業務」の一環として、自動車を運転している以上、従業員の起こした交通事故の損害につき、被害者から会社に対して責任追及がなされることになります。

金銭的な賠償については保険を利用するとしても、保険料の増額や会社が訴えられること自体の不利益(風評被害や裁判にかかる時間や労力)など、事前の対策で使用者責任のリスクを回避する必要があります。

対策

今回のような事案で、使用者責任のリスクを回避するためには次のような対策が考えられます。

  1. 従業員に歓送迎会への参加を強制しない
  2. 参加費については、会社ではなく従業員の負担とする
  3. 送迎にあたっては、会社所有の自動車を使用しない

①や②については、事実上対策が難しいかもしれませんので、最低限③については、早急に対策をとるべきではないでしょうか。

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弁護士神田 昂一
福岡県田川郡出身。 予防法務、債権回収、コンプライアンス体制構築など、企業活動に関する様々な問題に迅速に対応いたします。 ぜひお気軽にご相談ください。

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