定年退職後の労働条件の定め方

全国ニュースでも話題になりご存知の方も多いかと思いますが、平成28年5月13日、東京地方裁判所において、定年退職後再雇用された労働者の賃金の定めを無効とし、企業に対して定年前との賃金の差額の支払いを命じる判決が出されました。

事案の概要

横浜市の運送会社に勤めるトラック運転手の男性3人が、定年後に1年更新の有期雇用労働者として再雇用されたのち、業務内容が定年前と全く同じなのに賃金が下がったのは「正社員と非正社員の不合理な差別を禁じた労働契約法20条に違反する」として、定年前の賃金規定の適用、定年前と現在の賃金の差額の支払いを求めた事案です。

3人は、2014年3月から9月の間にそれぞれ定年を迎えましたが、翌月以降も1年契約の嘱託社員として再雇用され、業務内容や責任は定年前と全く同じでしたが、賃金は定年前に比べて約3割引き下げられていました。

裁判所の判断

裁判所は、再雇用後の賃金規定は労働契約法20条に違反すると認めたうえ、定年前の賃金規定を適用し、定年前の賃金との差額の支払いを命じる、運転手側勝訴の判決を言い渡しました

1.労働契約法20条の適用の有無について

労働契約法20条は、有期労働者と無期労働者、簡単に言うと、正社員と非正社員との不合理な賃金差別を禁止する規定です。

被告会社は、「再雇用」であることを理由に差を設けただけで、正社員か否かで区別したものではないから、労働契約法20条の適用はない、と反論していました。

しかし、裁判所は、期間の定めの有無を直接の区別の理由としていなくても、期間の定めの有無に「関連して」賃金格差が生じている場合には、労働契約法20条の適用があると判断しました。定年後は会社の規則上必然的に有期雇用となるのであるから、賃金の区別も期間の定めの有無に関連して生じていると判断したのです。

これにより、定年後再雇用制度を利用して有期雇用された労働者には労働契約法20条の適用があることが明らかとなりました。

2.不合理な差別に該当するかについて

労働契約法20条の適用があるとしても、差異の程度が不合理といえないものであれば、労働契約法20条違反にはなりません。

この点について、裁判所は、職務の内容、配置変更の範囲が無期労働者と同一であるにもかかわらず、賃金の額に差を設けることは、特段の事情のない限り、不合理な賃金差別に該当する、と判断しました。

そして、本件においては、職務内容や配置変更の範囲が定年前と同一であるとしたうえ、「定年後再雇用者の賃金を定年前から引き下げること自体には合理性が認められる」としながらも、「定年退職者を再雇用して正社員と同じ業務に従事させる方が新規に正社員を雇用するよりも賃金コストを抑える結果となっている」「定年後再雇用制度を賃金コスト圧縮の手段として用いることまでは合理性があるとはいえない」と判断しました。

つまり、職務内容や配置変更の範囲で定年前と同じ責任を負わせながらも、高卒の18歳新入社員よりも低い賃金にまで引き下げるのは、不合理な賃金差別に該当すると認定しました。

企業の対策

平成18年より、高齢者等の雇用の安定等に関する法律において、定年制の廃止、定年年齢の引き上げ、継続雇用制度の導入のいずれか1つを選択して実施することが企業に義務づけられています。

今回の被告企業は、そのうち、継続雇用制度を導入していたのですが、継続雇用後の労働条件が無効であると判断されてしまいました。

判旨でも触れられていますが、賃金コストの無制限な増大を回避しつつ定年到達者の雇用を確保するため、定年後再雇用者の賃金を定年前から引き下げること自体は合理性のあるものとして一般的に肯定されています。

ただ、今回の裁判例によれば、少なくとも、定年前に比べて職務内容に全く変更がなく、配置転換の範囲も限定されない状態で、賃金を新入社員よりも低くしてしまえば、不合理な賃金差別として、労働契約法20条違反になることが明らかとなりました。

不合理か否かの判断基準及び境界線については、今後の裁判例の蓄積を待つことにはなりますが、企業の側としては、不合理な賃金差別と判断されないよう、定年後再雇用者の労働条件を設定するにあたっては、